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2018年秋に発売されたグーグル純正スマートフォン「Pixel 3」は、nano SIMカードを使う。NTTドコモやソフトバンクで購入してSIMロックを解除するか、グーグルからSIMロックフリー版を購入すれば、好きなキャリアやMVNOサービスのnano SIMカードを入れて利用できる。
ただし、日本向けPixel 3はシングルSIM機で、挿入可能なnano SIMカードは1枚だけ。2つのキャリアと契約して各キャリア用のSIMカードを挿し、切り替えながら使うことなどは不可能だ。
ところが、国際版Pixel 3はデュアルSIM機だった。といっても、nano SIMカードを2枚入れられるわけではなく、nano SIMに加えeSIMという仕組みでデュアルSIMを実現させた。日本向けは、eSIM非対応と引き換えにFeliCa対応となっている。
日本で生活していると、Suicaなどが利用可能な「おサイフケータイ」が便利なのでFeliCa対応はありがたい。しかし、出張や旅行で海外へ行く頻度の高い人には、デュアルSIM、特にeSIMによるデュアルSIMの利便性は魅力的である。
関連する人気記事海外で使える場面が多く、成長が予想されるeSIM対応デバイスは、ユーザーが増えている。ところが、スマートフォン用のeSIMサービスは国内に1つだけで、まだ馴染みがない。これから日本でも普及するはずのeSIMについて、現状や市場予測をみていこう。
eSIMはどんな技術で、カード型のSIMとどう違い、どのようなメリットがあるのだろう。大きく3つのポイントに整理した。
eSIMとは、embedded SIMを略した言葉。モバイルネットワーク接続に欠かせないSIM(Subscriber Identity Module)をnano SIMカードのような取り外し可能な媒体で提供せず、スマートフォンに組み込んで(embedded)機能させるSIM技術を指す。
最大の長所は、ネットワーク接続設定用データをソフトウェア的に書き込み、設定を変更できること。たとえば、SIM対応スマートフォンは使い始める際にnano SIMなどのカードを挿入するが、eSIM対応デバイスは物理的なカードを必要としない。デバイスを操作し、設定用データをダウンロードすればモバイルネットワークに接続できる。
eSIM対応なら、新しく購入したスマートフォンを使い始める場合、キャリアの店舗へ足を運んでSIMカードを入手したり、オンラインで注文したカードの到着を待ったりしなくて済む。海外へ行っても、現地に到着してからSIMカードを購入してスマートフォンに挿す、という手間がかからない。eSIMを設定し直すだけで使えるようになる。スマートフォンのユーザーにとって、eSIM対応はとてもありがたい。
eSIMの恩恵をこうむるのは、消費者だけでない。スマートメーターやIoT、コネクテッドカーといった領域にもたらされるメリットは、はるかに大きい。
スマートメーターなどのデバイスは、モバイルネットワークを使ってデータ通信を行うため、キャリアのネットワークに接続しなければならない。物理的なSIMカードを使うデバイスだと、使用するネットワークの変更作業は大事だ。デバイスの設置された場所に担当者が赴き、1台1台SIMカードを交換して接続設定し直すことになる。多くの経費と時間がかかってしまう。作業ミスによる接続不良も発生するだろう。
これらの問題は、eSIMで解決される。遠隔操作で各デバイスのeSIMを書き換えたらネットワーク切り替えは完了する。現地へ行くことなど不要だ。作業ミスの心配もない。そうしたことから、eSIM普及がIoTやコネクテッドカーの普及を加速させる可能性もある。
eSIM対応は、SIMカードを挿入しないのでSIMスロットが不要、というメリットもある。デバイスの部品コスト、組み立てコストが下がるのはもちろん、デバイスを小さく薄く設計できる。その差はわずかだが、とにかく小型化、軽量化が求められるIoT機器や、大量に設置するデバイスなどでは、無視できない大きな意味を持つ。
さらに、SIMスロットという開口部がなく、防水性と防じん性の確保も容易になる。SIMカードの接触不良も発生せず、耐衝撃性の面でもデバイスの安定性が高まる。
そんなメリットの多いeSIMは、搭載するデバイスが今後増えると予想される。
カウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチの調査によると、2018年におけるeSIM内蔵デバイスの出荷台数は全世界で3億6,400万台だった。これが、2025年には約20億台まで増えるというのだ。その間の年平均成長率(CAGR)は、27%と高い。
出典:カウンターポイント / Shipments of eSIM-based Devices to Reach Nearly 2 Billion Units by 2025
デバイスの種類別でみると、2025年時点で出荷台数がもっとも多いのはスマートフォン。これに、監視装置や生産機械、スマート農業用デバイスなどの産業機器が続き、引き離される形でスマートウォッチ、自動車、ノートPCなどがある。
2018年から2025年のCAGRを比べた場合、スマートフォンは22%、産業機器は27%となる。これに対し、ドローンは87%、ノートPCは82%、ルーターは66%、スマートウォッチは55%と、大きく伸びる。カウンターポイントはこの急成長の理由を、スマートフォンなどに比べeSIM採用デバイスの台数が少ないから、とした。
出典:カウンターポイント / Shipments of eSIM-based Devices to Reach Nearly 2 Billion Units by 2025
良いことずくめと思えるeSIMにもかかわらず、日本では盛り上がりに欠ける。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクはスマートフォン向けにeSIMサービスを用意していない。産業用と一部タブレット向けのサービスや、KDDIの「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」向け海外限定サービス程度にとどまる。海外のeSIMキャリアと契約しておき国内でローミングする、という手段を使えば国内でeSIM対応スマートフォンが使えるものの、かなり特殊な方法だ。
現在の日本でeSIMスマートフォンを使うなら、インターネットイニシアティブ(IIJ)が7月18日に開始したばかりの、eSIMデータ通信サービス「IIJmioモバイルサービス ライトスタートプラン(eSIMベータ版)」が現実的だろう。スマートフォン向けとしては、現時点で国内唯一のサービスである。
キャリアが消極的なのには、理由がある。スマートフォン向けeSIMサービスを始めると、大切な契約者を失う恐れがあるからだ。
SIMカード対応のスマートフォンは、キャリアを変えようとすると物理的なカード交換が必要で、手続きや受け取りなどを面倒に感じる人は多い。つまり、他キャリアへのユーザー流出がSIMカードに妨げられている面もある。eSIMになると、キャリアの変更は至って容易だ。他キャリアから顧客を奪いやすいと同時に、奪われやすくもなる。キャリアの立場でみると、これは脅威といえる。
その点で、IIJの「IIJmio」など積極的にユーザーを獲得したいMVNOは、eSIM対応という冒険をしやすい。キャリアが手をこまねいているうちに、海外キャリア、海外メーカー、国内MVNOが次々とeSIM対応を進め、最終的にキャリアが追従することになるだろうか。
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