サイバーコネクトツーの代表取締役社長・松山洋さんへのインタビューを掲載する。
サイバーコネクトツーは、さまざまなタイトルを開発するゲームデベロッパー。ゲームソフトの開発だけにとどまらず、マンガ『チェイサーゲーム』をてがけるなど、活動の幅を広げている。
松山さんには、最近行っているさまざまな活動や、ゲーム業界について質問。パブリッシャー(販売会社)やデベロッパー(開発会社)について、さらには好評連載中の『チェイサーゲーム』の今後、同社のこれからの展開についてなど、さまざまなことをお話しいただいた。
同社のタイトルが好きな人だけでなく、松山さんのファン、ゲーム業界に興味を持っている人はぜひご覧いただきたい。
――ここ数年の松山さんは、SNSに加えて、動画による情報発信、イベント参加、講演会、学校訪問などさまざまなことを行われています。こちらには、どのような意図があるのでしょうか?
なぜ行っているのかをお話する前に、まず前提として弊社は採用に困っています。また新人が育ちにくい時代です。
以前であれば努力と根性、そしてアイデアでなんとかなりましたが、この5年、10年でゲーム業界は誰でも入れるところではなくなりました。しっかりとした技術と戦略がないと、企業もタイトルを作れない状況です。そして、そのタイトルの発売がもし1カ月遅れたとしたら、とてつもない損失につながります。
――大きなプロジェクトだと雇用人数が多いので、そのメンバーを1カ月囲ったら……ということですね。
はい。現在、子どもたちがゲーム業界に自動的に夢をみてくれる時代は終わっています。
それに対して、我々は2段階やることがあると考えています。まずは、ゲーム業界に夢を持ってもらうこと。その次に具体的にどうすればいいのかを教えることです。
――なるほど。
私は国内外を含めて、年間で100カ所近くの学校を回っています。これまでは専門学校や大学など、ゲーム業界を目指している学生がメインでしたが、最近では年齢をさげて、中学校、小学校などにも活動範囲を広げています。名前を覚えてもらうためというよりは、ゲームを作る仕事があることを知ってもらうためです。
一般の人が考えていることと、ゲーム業界の間には大きな開きがあります。その溝は黙っていても埋まらず、子どもや学生の多くがゲーム業界をわからないままです。さらに言えば学校もどのようにしていいのか、わからないまま業界に入れようとします。
――言うのは簡単ですが、多くの学校を訪問するだけでも大変だと思うのですが……。
当然大変ではあるのですが、やらないと人は育っていきませんし、採用できません。
私も昔はそうだったのですが、ゲーム開発ってなかなか正体が見えないんですよね。誰もができる仕事ではないのですが、煌びやかで楽しい世界。夢を持って挑めばちゃんと攻略できるので、何をすればゲームクリエイターへの道が開けるのか、夢が叶うのかを教えてあげる必要があります。
我々はそれを教える必要があると考えてやっています。
――未来の人材のためだと。
はい。弊社の3年後のクリエイターを確保するために動いています。ただ、その次に“業界に来てもらうため”でもあります。
もちろん同じ志を持ったクリエイターを欲しています。ただ、うちに全員が入れるわけではないので、もし仲間になれなかったとしても、他のメーカーに入ってライバルとして業界を支える人になってほしいわけです。
それをなぜ私がやっているのかといえば、すべて丸く収まるからです。いろいろなスタッフ、それこそプロデューサーやディレクターなどが分担して訪問した場合、その期間は開発が止まります。土日であれば、休日出勤や残業につながります。私は社長という立場ですが、稼働にコストがかからない“使い放題”なのです(笑)。
――無茶をしているのではなく、考えたうえでの施策ということですね。
ゲームクリエイターは負けず嫌いな人が多いんですよ。このようなことをやっていると他メーカーの方、例えばレベルファイブの日野さん(日野晃博代表取締役社長)であれば「いろいろやっているけど、なんでやっているの? 実際にどうなの?」と聞いてきます。私が目的や考えていることを伝えると「それは正しい! うちもやらないとダメだ」となります。
少しずつ業界にも伝わって変わり始めているので、やっていることに意味はあると感じています。
――編集やライターの業界も若手が入りにくい、育ちにくい状況が続いていると感じます。
厳しいことをいうと、ライター、編集、マンガ家、イラストレーター、アニメーターなどは業界がブランディングに失敗していると考えています。好きなことをしていることをいいわけに、お金をもらえないわけです。若い時はやれるかもしれませんが、そのまま続けるのは難しいです。
どこの業界も持っているジレンマだと思いますが、まずはゲーム業界から少しずつ変えていき、他の業界やメディアに影響を与えていきたい。そんな大層なことを考えています。
――公式チャンネルCyberConnect2 OFFICIAL CHANNELでは、クリエイターを呼んでトークしたり、ファンからの質問に答えたりと、さまざまなことを行っている印象です。
弊社はこれまでデベロッパーとして、ゲームソフトを開発してきました。ただ、これからは、パブリッシャーとしてタイトルを出していきます。その理由などは後ほどでお話するのですが……。
いい作品を出していくことだけでなく、今後はサイバーコネクトツーのブランドを出していき、おもしろいメーカーとして認識していただいたり、期待を抱いてもらったりする必要があるわけです。
そのために、動画における番組展開や情報発信を行っています。今年、新しいコンテンツを立ち上げますが、私以外がやっていく動画もあるので、期待してください。
――行っているさまざまなことの中に、マンガ展開もあると思われます。これまでに明かされていますが、マンガを出すことになった経緯を改めてお話しください。
うちが作ってきたタイトルの多くは少年マンガが原作になります。『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズを筆頭に『ジョジョの奇妙な冒険』、先日リリースされた『ドラゴンボールZ KAKAROT』、なんならば『.hack』シリーズも展開は少年マンガと言えます。
結局、弊社はこのような展開を得意とし、マンガ文化に敬意を持って開発してきました。開発していく中で、周りのいろいろな方から「そんなにマンガが好きならやればいいじゃん」と言われてきました。マンガをヒントにゲームを開発していますが、本業はゲームクリエイターで、マンガをやるわけではないと言い続けてきました。
――何があったのでしょうか?
20年くらい前に『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズの開発がきっかけで『週刊少年ジャンプ』編集部に出入りするようになりました。その際にある人から、マンガ、ゲーム、映画など、いろいろあるけど、世界中で一番多くのIPを生み出してきたのは、マンガであると言われました。
そしてそれは『週刊少年ジャンプ』が多いわけです。
最近のゲーム開発には数十億円かかります。TVアニメであれば3年前から動く必要があり、時間と人手がかかります。ノベルは作業工程はさほど多くないのですが、文章は読みにくさもあり、広がりにくいイメージです。
マンガは究極の個人作業なうえに、子どもたちにとってエンタメの入り口として入りやすいコンテンツなんです。
――確かに入りやすいですね。
弊社が作っているタイトルは開発期間が数年かかります。世界中のユーザーを魅了できるように力を入れて作りますがお金と時間がかかるわけです。
私自身の一番の得意技はマンガ。ゲーム開発は会社全体で情熱をかけて作りますが、マンガであれば私が個人的にやることもできるので、サイバーコネクトツーから新しいIPを短期間で定期的に発信できる。なぜもっと早くやらなかったのかと思いました。
――それがきっかけだったのですね。
数年前にうちのスタッフに「ゲームだけでなく、マンガやアニメを作る。そしてマンガの1作目は私、松山洋原作でやる」と伝えました。そして私がやるのであれば、ゲーム業界を舞台にした作品がわかりやすいわけです。
過去には『東京トイボックス』というゲーム業界のマンガがありますが、あれからもう10年以上が経過しています。10年の間に業界も変わっているので、最新の現代の業界を舞台にしつつ、私でないと描けない“少しエグい表現”を出すのがいいだろうと考えました。それが『チェイサーゲーム』です。
――エグ目のネタはあえて入れていこうと。
もちろんです! ゲームを作る時には、サイバーコネクトツーでないとできないことを意識しています。それと同じで、私が書いている以上、業界のいい所だけをピックアップしてもしょうがない、私でないと書けない物語をやるから意味があると考えています。
――掲載したところ、読まれた方から大きな反響がありましたね。
「読むと胃が痛くなる」と言われ、大成功でした。これからの展開では、新たなエンタメ性を出していく予定です。
――ゲーム業界を題材にするにあたって、意識していることはありますか?
注意しているのはゲーム業界の人しかわからないネタ、伝わらない内容にしてはダメだということです。例えば広告代理店の人が読んだ時にも共感してもらえる、「わかります、うちにも魚川みたいなタイプがいますよ!」というように、仕事はできるが合理的に進めることしか考えない人、嘘をつく人、締め切りを守れない人はどこの業界にもいるんですよね。
作品の評価は“8割が共感、2割が意外性”だと私は考えています。まずは多くの人に共感してもらえるように、気を付けています。ここは読者の幅を広げる施策でもあります。
――細かいネタになるのですが、1巻の表紙で上田さんのPCモニターにERRORが出ているところに、ニヤッとしました。
ありがとうございます(笑)。キャラクター性が出ているワンシーンですよね。
――個人的に食べながら相談をしたり考えたりするのは、松山さんの考えに近いのかなと感じているのですが、いかがでしょう。
理由は2つあります。1つはマンガ的なテクニックです。仕事はもちろん会社でするのですが、起きていることをただ切り出すだけだとシーンがずっとPCの前だけになってしまいます。場面転換がないと退屈なので、1話につき、最低2場面は用意するようにしています。
もう1つはリアルさです。ゲーム開発はチーム制作で進むのですが、会議室で決められることと、理屈では決まらないことがあります。そんな時に飲みに行って、雑談したり愚痴を聞いたりして、仕事は成り立っている。そこを赤裸々に描いています。
――『チェイサーゲーム』3巻が発売となりますが、こちらの見どころについてご説明ください。
『チェイサーゲーム』は大きく3部構成になっています。1巻と2巻は現代を描いて、3巻からは10年前に戻り、登場キャラクターの若いころが描かれます。登場人物がどうやって夢を見て、どんな経験を経てゲーム業界に入ったのかがわかるのです。
1巻、2巻を楽しんでいただいた人だけでなく、3巻から読んでもおもしろいのが特徴。悪ガキだったメンバーが苦難を乗り越えてゲーム業界に入ってくるという、読者目線に近い展開なので感情移入できるかと。
――作中のガジェットやタイトルも当時を反映していますね。物語はこの後、どのようになっていくのですか?
5巻から3部に突入して、時間軸は再び現代となります。過去と現代を行き来して、ゴールに向かって物語は進んでいきます。
ずっと読んでいる人はわかるのですが、過去編に出てきたメンバーの一部は現代では登場していません。彼らが何をしているのか……こういったところも少しずつ明らかになっていきます。
――現代から過去になり、また現代に戻ってくると。
普通の作品であれば、過去の2部から物語をスタートさせ、夢を追いかけるシーンから描いていくと思います。ただそれだと、おもしろさを感じるまで時間を必要とします。そのため、読んだ人が感情移入しやすいようにしたうえで、キャラを掘り下げるような、この作りにしました。
――ゲーム開発の話になるのですが、開発費が高騰していく中で、会社としてはどのようなことを念頭に開発していますか?
タイトルの規模にもよるのですが、最近のゲーム開発は数十億円かかり、プロジェクトは数年に渡ります。もし20代の新人が入ってきてチームに配属されて、最初から最後まで開発した場合、20代の間に2~3タイトルしか作れないわけです。
プロジェクトが巨大なので一部分しか把握できず、成長が遅い。経験が少ないうえにあまり成長できていないので、任せることができないのが昨今の事情となっています。
もし、開発の全体像をつかめるような環境で、タイトルをガンガン作れたらドンドン成長できます。1本作ったらスーパーサイヤ人になって、3本も作ったらスーパーサイヤ人3くらいまでなって、開発を任せる候補になるわけです。どこの業界でもそうだと思います。
――開発で関与できることが少ないからこそ、伸びにくいわけですね。
ここ数年、世界中から求められているのは巨大なタイトル……それはパブリッシャーさんと協力しながら今後も開発していきます。
そのうえで、開発のスタイルを少し前に戻して、スタッフ20名程度で開発期間1年くらいという規模感のタイトルをサイバーコネクトツーから出していきます! もちろん、ビッグタイトルに比べると予算は限られているので“何でも”はできません。その代わりに、よさがしっかりある、尖ったタイトルを目指します。
――感覚としては、ダウンロードソフトやインディータイトルに近いものになるのでしょうか?
精神的な意味や方向性としては近いと思います。ちょっとワガママなタイトルを自社でパブリッシングしていきます。
開発スタッフは若手とベテランをミックスします。ベテランが若手をたたき上げていきます。さらに若手は、なんでもやるので仕事こそ大変ですが、その分成長できます。そして一定の過程を積んだメンバーをプロジェクトの中堅に入れるというサイクルを作っていきます。
――その新作タイトルは、いつごろにアナウンスされるのでしょう。
まずは小さいイベントなどに出展して、モニタリングしていこうと思っています。しっかりとしたお披露目は夏くらいを考えていますね。
――よくある質問になりますが、会社として、個人として、ゲーム業界を目指す人、開発に求めている人はどんな人ですか?
先ほどあがった『チェイサーゲーム』を例に出すと、作中でインターンシップを行いました。その中に登場した黒田くんは、空気が読めなくて微妙だと言われているのですが、とにかくすごいものを作って、認められたいという情熱があります。それこそが“物づくりの正体”だと私は思っています。
作中では、“能力は60点でも調和をとれる三多さんが必要だ”と書いています。もちろんそういう人も必要です。ただ、本音で言えば、黒田くんのようなタイプを求めています。
これから業界を目指す人は、まずは心の箍(たが)を外して来てほしいです。やりたいことをやるためであれば、どんな手段を使ってもやる……そんな人間を求めています。
――インターンシップ編は最後を含めて、印象的でした。
私のLINEアカウントは、会社内で共有しています。そのため、スタッフからは仕事の話からどうでもいい話まで送られてくるんですね。
黒田くんの時が一番反響があり、多くのメッセージが届きました。多くは「自分も黒田くんのような人と仕事をしたい」というものだったので、「僕もそう思うよ」と返しました(笑)。
――エネルギッシュな松山さんですが、そのエネルギーを生み出す源はなんでしょうか?
小学生のころですね……交通事故や老衰で人が亡くなることを知った時に、「なんのために生きているのか」を考えました。子どものころはマンガ家を目指していたので、生きてきた証として、作品を残さないと意味がないと思いました。
その後、大人になって「あれもやりたい、これもやりたい」となって今があるのですが……ある時にゲームと向き合った際に、総合エンターテインメントのすごさを感じて、一生やっていくことを決めました。
別にゲームに限らないのですが、作品というものは人が亡くなってからも残ります。イベントを行えば、参加してくれた人の心に残ります。
私は、“いてもいなくても一緒”というのが一番罪だと思っています。このような性格を作ってくれたのは、『週刊少年ジャンプ』だと思っています。愛して読んできた作品の主人公は、心に残る人ばかりでした。
――マンガのコンテンツとして新たな展開があるとお聞きしたのですが、どのようなものなのか、お話いただけますか?
『チェイサーゲーム』に続いて、サイバーコネクトツーが展開するマンガの2作目、3作目を発表します。それに、あわせてそのマンガ家を募集します。
――新作を手がけるマンガ家を募集すると!?
一部の方はご存知だと思うのですが、『チェイサーゲーム』を描いている松島幸太朗は、とあるキッカケからサイバーコネクトツーの社員となり、社会保障がある状態で作品を描いています。社員なので、毎月給与をもらい、評価されればボーナスが出る。社員としての立ち位置でマンガ家をやるのは大変珍しいことだと思います。
その2人目、3人目のマンガ家を募集するということです。まだ見ぬ才能を発掘しつつ、魅力的なマンガを提案していきたいのです。
――どのようなマンガになるのでしょうか?
すでに原作はほぼできているのですが、それは発表時までお待ちください。もちろん、エッジを含ませたタイトルになっています。
また、『チェイサーゲーム』では私が原作をやっていきますが、2、3作目の原作者は私ではなく、弊社の社員がつとめ、私が編集という役割で作っていきます。
1つだけ言っておきたいのは、サイバーコネクトツーは出版社になろうとしているわけではありません。あくまでコンテンツを作っていく会社です。そのため、掲載媒体については出版社さんと相談して、最適な場所を模索していく予定です。
――驚きました。最後に何か言い足りないことはありますか?
かなり話しましたけどね(笑)。……あえて、出版の話をさせてください。この記事を読んだ人には理解してもらいたいのですが、マンガは慈善事業ではありません。ゲーム業界の人に会うと「読んでいますよ」と言ってくれるのですが、「単行本、買った?」って聞くと、「まだです」という人が多いんですよ。
『チェイサーゲーム』は多くの人に読んでいただきたいということで、これまで公開したすべての連載を今でもWeb上で読むことができます。マンガ本編は無料ですべて読めますが、単行本は描きおろしの他に充実したコラムや企画を収録していて、マンガ以外の情報や楽しさが詰まったものになっています。
読んでおもしろかったら、ぜひ買ってください! 買ってもらえないと、連載を続けられなくなるからです。
――個人的には『チェイサーゲーム』2巻の最後にある開発者の休日を描いた外伝が好きです。
ありがとうございます。マンガは単行本を買ってもらえないとビジネスにならないのです……私が原作をしていることもあり『チェイサーゲーム』の存在感はそこそこあるのですが、売り上げがすごいわけではないのが実情。ぜひ購入していただきたいです。
世知辛い話になりますが、マンガ単品で売れて、重版がかかるのは難しい。アニメや実写など、映像化されたタイミングで広がってようやく売れて、続けられることが多いのですが、すべての作品が映像化されるわけではありません。もちろんこれからも頑張って告知をしていきますが、Webで読むだけでなく、マンガやコンテンツにお金を払うことに向き合ってほしいと思っています。
――本日はありがとうございました。
▲インタビュー後に行われた『チェイサーゲーム』打ち合わせを取材させていただいた。真剣に、それでいて楽しみながら作品について話すメンバーの姿がとても印象的であった。ナビゲーションリスト
ゲーム業界に来るならば敵でもいい! 学校訪問を行う意図とは!? 『チェイサーゲーム』は松山洋だから描けるマンガに! 今後はパブリッシャーとしてゲームソフトをリリース! 新作マンガ2、3作目の発表と同時にマンガ家を募集カテゴリー
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