アダルトコンテンツのクリエイターたちはこれまでたびたび検閲の問題を抱えてきたため、新たな可能性を仮想通貨の世界に見出したようだ。ブロックチェーン上のデジタル資産、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)である。
若草色の背景をバックに、網タイツとビスチエ、鮮やかな緑のハンターキャップをかぶった1人の女性。鎖につながれ、両手を合わせて懇願する金融サービス会社RobinhoodのCEO、ウラジミール・テネフ氏を引っ張っている。「ウラッドは私の犬」と題した画像は、仮想通貨マーケットプレイスRaribleで1イーサリアム(1772ドル強)で取引されている。
この画像を作ったのはSMの女王様兼アーティストのCryptonatrixだ。彼女は本人がいうところの「女性的なテーマで政治や世の中の出来事に物申す」ことを専門としている。他には、巨大な足がイーロン・マスクの頭を踏みつけて「セーフワードは何? イーロン」という画像や、レザーストラップ姿の2人がミケランジェロのシスティーン礼拝堂のごとく、腰をかがめて肌を触れあんばかりにしている画像もある。彼女はこれらの作品を少なくとも数百ドルで販売しているが、作品は物理的には存在しない。
【写真を見る】アート? エロ? 女王様が手がけた「NFT」
こうした作品はNFTと呼ばれる。すなわち非代替性トークン、ようするにサイン入りベースボールカードや希少な切手など、この世にひとつしかない貴重なコレクターズアイテムを所有する「デジタルの入れ物」だ。NFTはとくにアートの世界で有名だ。最近ではグライムスが自らのNFTの中から、50秒の動画を39万ドルで販売した。スティーヴ・アオキの「Dream Catcher」限定アートコレクションは、425万ドルの売り上げを記録した(元T-MobileのCEO、ジョン・レジャーは、1回のオークションとしては過去最高額となる88万8888ドルで競り落とした)。アーティストBeepleはNFTをクリスティーズのオークションにかけたが、6900万ドルという驚異の価格で落札された。Twitterの創業者ジャック・ドーシーも、以前オークションにかけたツイート第1号をNFTとして販売しようとしている。現時点での最高入札価格は250万ドルだ。
「アダルトクリエイターはずっと検閲の問題をかかえてきた」
仮想通貨コミュニティ以外では、NFTや将来的な価値に対して懐疑的な見方が多分にある。だが、テクノロジーを早い段階から取り入れてきたことで定評のあるアダルト産業内では、ビデオデッキやケーブルTVの普及を後押ししたように、Cryptonatrixのようなアダルトコンテンツ・クリエイターがNFTブームを取り込み始め、ニッチだが熱烈な顧客層に作品を売り込みにかかっている。
「買い手はみんなヌきたいだけだから、わざわざブロックチェーンにあるものを入手する気なんかない」とローリングストーン誌に語るCryptonatrixは、9月からNFTを作り始めた。「でも中にはこういうデジタルトークンを手に入れて、自分のお気に入りのクリエイターが作った特別な画像の所有者になりたいという人もいるのよ」
このところセックスワーカーの多くは仮想通貨に進出している。「アダルトクリエイターはずっと検閲の問題をかかえてきたからよ」と、オンラインセックスワーカーのアエラさんは説明する。彼女は前に別のプラットフォームにアップロードしたヌード写真のうち5点ほどを、NFTとして1つ600ドルで販売した。PayPalなどの主流な決済サービスはアダルト系ビジネスの取引を処理することを拒んできたため、その結果多くのセックスワーカーたちの資産が凍結されている。
またセックスワーカーたちは、Instagramのような大手プラットフォームで存在を維持するのも苦労してきた。そこではしばしばアカウント制限をかけられたり、厳しいコンテンツガイドラインの標的とされた。一部のセックスワーカーは、NFT制作が収入源を多様化させる道だとみなす一方で、コンテンツがブロックチェーンから除外されないように気を配っている。「完璧な解決法じゃないわ。プラットフォームのヌードに対するポリシーが不透明だから。でも、真の自由がある可能性は高いわね」とアエラさんは言う。
アリー・イブ・ノックスさんは、マドリードの有名なメトロポリスビルにそびえる女巨人として描かれた画像「Allie in the Cityパート2」を現在オークションにかけている。前作の「Allie in the Cityパート1」は、仮想通貨マーケットプレイスRaribleで510ドル相当で販売された。この画像は彼女のアシスタントの1人、通称Dog_editorという男性が15ドル程度で制作したものだ。ローリングストーン誌とのインタビューでノックスさんは、NFT制作が長期的にも報酬を生み出してくれると考えている。誰かが彼女のNFTを転売すれば、残余費用の30%が彼女の懐に入るのだ。「いくらかお金のある男の子たちは、コミュニティ内で画像を転売しているの。私もおこぼれにあずかりたくて、参入したのよ」とノックスさんは説明した。「アートの世界を変えたいとか、みんなに尊敬されたいわけじゃない。ただ、別の収入源がほしいだけ」
【写真を見る】セクシーポーズの女巨人
「ポルノ」は無料ではない
ノックスさんは、NFT制作がセックスワーカーにとってさらに象徴的な意味がある、と考えている。動画サイトや海賊版ポルノの世界では、ポルノは使い捨て商品のように見られているが、NFTポルノはそうした文化的な見方を覆す。「かつてLimewireの時代には、みんななんでもダウンロードしていた。それが可能だったから、どこでも手に入れられるくらい、簡単に入手できるもんだと叩き込まれていたからよ。アートも音楽もヌードも、お金を払って買うものなんだと教育することは、セックスワーカーの将来に大きな1歩となるわね。カスタマイズされた限定コンテンツにお金を払おうと促すわけだから。ポルノにお金を払うよう、叩き込んでいるのよ」
もちろん、いくつか大きな障壁もある。ノックスさんが言うには、運営維持費(とくにイーサリアム換金処理費用)が問題になる場合もあると言う。また、仮想通貨の将来性にまつわる不透明さも、敷居をわりと高くしている。それに加え、現在アダルトコンテンツのクリエイターにNFT制作を認めている多くのマーケットプレイスがこの先もそうさせてくれるのかどうか、はたまたメインストリームのプラットフォームに倣って、性的にきわどいコンテンツをすべて粛清するのかどうかもわからない。また、年齢確認規則によってヌードや猥褻なNFTを売るクリエイターが成人年齢に達しているかを確かめるすべもない。「買い手が何歳なのか、コンテンツに映っているが誰なのか、その人がいくつかなのか、同意の上なのかどうかもわからない。私にとってはそれが一番の懸念ね」とCryptonatrixは言う。
だが、そうしたネガティブな可能性は新しいテクノロジーにはつきものだし、アダルトクリエイターたちは楽観的だ。仮にプラットフォームが職場での閲覧注意なコンテンツを取り締まり出しても、アダルト産業向けの新しい空間やプラットフォームが出てくるだろう。「ここには金のにおいがぷんぷんするからね」とアエラさんも言う。「それはみんなも知ってるわ」
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from Rolling Stone US
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