2人が出迎えてくれた試聴室、実は長年、隣にあったオンキヨー本社ビル内に設置されていたが、3年前に本社が北浜に移転。それに伴い、現在の建物に移設したものだという。部屋は新たに作ったものだが、室内の特性はかつての試聴室を再現。設置している機材も、長年試聴室で使われていたものがそのまま移設されている。
一般的な試聴室のイメージからすると明るい。図面を見たり、ハンダ付けをしたり、仕事がしやすいようにあえて明るい空間にしているというオーディオ技術部 開発技術グループ 技術1課の主幹技師、浅原宏之氏浅原氏(以下敬称略):機材や部屋の特性が変わってしまうと“従来との比較”ができなくなってしまいます。新製品を作る際にも、過去の経験やデータを基に問題点を解析し、それをクリアして進化させる必要があります。まったく特性が違う試聴室になってしまうと、そうしたデータが活かせなくなってしまうためです。
長年の技術の蓄積、多くの製品を測定したデータなどは、オーディオメーカーにおいて重要な資産だ。それを活かすための試聴室や機材は、オンキヨーサウンドを支える屋台骨と言っても過言ではない。重要な試聴室だからこそ、こだわりもハンパではない。
北川氏(以下敬称略):施工業者さんに依頼して部屋を作っていただくと、綺麗に仕上げていただけるのですが、音の面では手を入れなければならない部分があります。枠木がしっかり取り付けられていても、スピーカーから音を出してみるとビビってしまう場所があります。その時は、我々が枠木をバラして、もう一度ボンドづけし、釘も打ち直します。幸い、スピーカーも開発しており、エンクロージャの設計と部屋の設計は似ているところがありますので、そのノウハウが活かせるのです。
周囲を見回すと、壁と壁の隙間に小さな木片が挟み込まれている。これも細かな音質チューニングの結果。このあたりのノウハウは、一般的な家庭のオーディオ環境でも活かせそうだ。では、どのような特性の部屋が、試聴室として理想的なのだろうか?
壁と壁の隙間に小さな木の板が打ち込まれているスピーカー背面の壁は強度をアップさせてあるオーディオ技術部 開発技術グループ 技術1課の主幹技師 北川範匡氏北川:一言で言えば“製品の性格が良く分かる部屋”ですね。部屋のキャラクターが音に乗ってしまうと、それに左右されてしまいますので。具体的には、スピーカーの背後の壁の固さや素材、壁との距離が重要です。コンサートホールもそうですが、オーケストラのバックステージが柔らかい素材だと、低音の力が無くなり、音のバランスが崩れてしまいます。
コンサートホールでは響きの良さを追求し、残響時間も長めに作られています。この試聴室はあまり響きが出ないようにしながらも、完全にデッドにはしていません。他のメーカーさんと比べると、残響時間はむしろ長めかもしれませんね。
浅原:部屋の余計な響きがつくと、「響きが良い製品が完成した!」と思っても、お客様の家で響かないという事になってしまいます。しかし、完全に試聴室がデッドでは、スピーカーの直接音しか聴こえませんので、それはそれで、実際に家庭で使われた音とは異なってしまいます。測定のためだけの部屋ではなく、響きが豊富で聴いていて楽しいだけの部屋でもダメ……その配分が難しいですね。
北川:残響時間は500Hzの音を測定するという決まりはありますが、本当の意味で良い部屋というのは、低い音から高い音まで、残響時間が一定なのです。残響を調節するだけであれば、吸音材を入れるなどしていけば良いのですが、音の上から下まで、残響時間を一定にするというのはかなり難しい事です。
浅原:部屋を作ってからしばらくの期間は、細かな調整が必要です。コンクリートの水分が抜けて固まるまでに音は変化しますし、木材のエージングによっても音は変化します。そこはオーディオ機器と同じですね。
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