話題をさらった映画『新聞記者』に続き、Netflixのドラマ版も配信開始を待つ監督・藤井道人さん。そんな藤井監督が参加した映画『DIVOC-12』は、日本を代表する3人の監督と9人の若手監督による12本の短編で紡がれるオムニバス作品です。この作品はもとより、スタッフは映画を撮り始めた大学時代の頃からほとんど変わっていないという藤井組。Netflixを始めオファーは「藤井組って面白そうだね」と集まってきた人たちばかりで、「現場の雰囲気も、組全体の士気もすごくいい」と語ります。そうした現場づくり、組づくり、さらにクリエイターとしての意識の持ち方は、今後の映画業界のスタンダードになってほしい考え方がいっぱいです。
©2021 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved―『DIVOC-12』の参加の経緯と、どんな作品なのか教えて下さい。
あるプロデューサーさんから声をかけていただいたのがきっかけです。コロナ禍の映画業界にもいろいろな動きがある中で、「やっぱり映画作ることしかできない」と考えていた自分の姿勢を示す作品にできるなと。僕を含め3人の監督(上田慎一郎監督、三島有紀子監督)が、それぞれ推薦で2人、オーディションで1人の若手監督を選び、チームごとのテーマで12本の短編をつくっています。
.―藤井チームのテーマ「成長への気づき」を、作品にどう落とし込みましたか?
まったく売れない時から一緒にやってきた僕と(横浜)流星が作ったものが、ちゃんと観客に届くこと。そして自分が選んだ若手監督が発見されること。そのすべてが「成長への気付き」という風になればいいかなと。自分の作品においては、インディーズ時代から支えてくれてたスタッフたちと一緒に作れたことが、一個の「旅」としてすごく大きかったです。
©2021 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.―横浜さんの成長はどんなふうに?
出会いは彼が14~5歳の頃で、映画『青の帰り道』の撮影当時は漠然と俳優をやっている感じでしたが、どんどん「映画人」になっていますね。自分がどう映りたいか、どう演じたいかではなく、作品をいいものにするために、ずっと現場に立ち続ける俳優になってきた気がします。今回は沖縄、京都、北海道で同じシーンを撮影したんですが、どんどん芝居が良くなっていくんですよね。最終日の部屋のセットでの撮影では、非常に感情が出るお芝居でしたが、全部テイク1でOK。役をきちんと意識できる、いい役者になったなあと。
.―3日間で日本を縦断する撮影だったと。タイトな予算と日程を乗り切る工夫はありますか?
バラエティの企画か!っていうスケジュールで(笑)。予算はなければないなりに作るんですが、ただ最優先すべきは何かを明確にしておくことですよね。今回は「今、人が見られないものを撮ること」でした。例えば沖縄では、人が一人も歩いてなくて、やっぱりすごくザワザワするんです。そういう、報道では見られない「今はこうなってるんだ」という映像を残したかった。長編をコンスタントに撮っている今、短編を撮る意味は「初心に戻る=無茶しろ!」ってことだし、12本の短編が並ぶ中で「手を抜いた」と言われないよう、本気出してやってみました。
―日大芸術学部出身ですよね。最初から監督になろうと?
全然思ってませんでした。大学受験で落ちて「やべえ」となった時、日大芸術学部が英語と国語だけで受験できると知り、芸術学部映画学科ってそんな楽なとこあるのか!っていう感じで。高校3年生の時にチャーリー・カウフマンの『エターナル・サンシャイン』を見て、脚本てすごい!ミシェル・ゴンドリー、ヤバい!と思って、専攻も脚本コースでした。見ていたのは洋画ばっかりだったので、入学してから「君は小津安二郎の何が好きなの?」なんて言われて、「ごめん今から勉強するから、そのマウンティングやめて」みたいな(笑)。
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脚本が一向にうまくならないので、監督をやってみたらすごい楽しくて。そのうち監督業のほうが求められるようになってきちゃったんですよね。「24歳です」とか年齢サバ読んで、在学中にすでにVシネマとか撮ってました。ナンバーワンキャバ嬢を目指すホステスの話とか。
―最近は助監督は経験せず、自主映画から人気監督になる方が多いような印象です。
Vシネマの現場で一回だけ、助監督をやったことありますよ。死ぬほど怒られて、もう一生やらない、向いてないと思いました。20歳そこそこでカリカリしてて「命令すんなよ!」とか思ってましたし(笑)。自主映画のほうが監督デビューしやすいと言われた時代もありますが、クリエイティブが安定したちゃんとした「組」であれば、助監督から監督デビューする流れもあると思います。僕もそういう流れを作りたいと思っているし、実際に僕の組の助監督も監督デビューしてます。
This content is imported from YouTube. You may be able to find the same content in another format, or you may be able to find more information, at their web site.―24歳でディレクター集団「バベル・レーベル」を立ち上げていますよね。今おっしゃったようなことを、当時から見据えていたんですか?
今思えば、ですが。当時はお金もないキャリアもない中で、それでもみんなで指針を決めてやろうと必死だったんですよね。「バベル」は以前はCMがメインだったんですが、一昨年、社長が急に「来年からドラマだ!」と打ち出して、「了解!」とみんなでどーっと走って、今年はすでに十数本のドラマを撮っています。社長も含めみんな同級生なんで、楽しいですよ。
―藤井組として意識していることはありますか?
監督のギャラを下げてもいいから、スタッフのギャランティは普通の組より高く設定しています。「藤井組ならギャラもいいし、自由にいいものを作らせてもらえる」と思ってもらえると、例えばプロデューサーから「ちょっと予算が足りなくて無理かも」と言われた時に、みんなで考えようと思ってくれる。ギャラはリスペクトの対価で、だからこそそういう責任も感じ、考えてくれるんですよね。
―当然のように「ギャラが安い」日本映画界で、藤井さんがそう考えるのはなぜですか?
インディーズ時代にそれこそ1本10万円とかで作っていたんですが、スタッフにはおにぎりだけ、プロの録音部さんにすら1万円しか渡せない。その時の悔しさが根底にあります。26歳でメジャーデビューした時も、日本の映画監督が自分の知的財産や権利に対してあまりに無知であると感じました。その意識を変えていかないと、ギャラも制作費も上がらないし、自分たちのクルーにご飯を食わせることがもできません。
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大事なのはそういうリスペクトをシステムにすることだと思います。まずは自分たちの価値を自分たちで上げる。例えば僕ら世代があまりに安いギャラで仕事を引き受けると、若い子たちはもっと叩かれてしまう。そういうことも考えないと。
今、バベルでは新しい循環を作ろうとしていて、20代の監督をたくさん入れて、ドラマのサード監督あたりからどんどん経験させています。そして若いうちから、監督が目指す画を作るために、スタッフがどれだけ努力しているかも認識させる。そこでリスペクトが育まれれば、現場のケンカやハラスメントは基本的には起こらなくなると思います。僕の組も「監督をいじってナンボ」みたいな雰囲気ですよ。フラットな現場を作るために、自分がまだ歳が若いことを逆手にとると言うか。
―リスペクトという点について、現場で具体的に意識していることはありますか?
各部署のディレクター全員が集まった場所で「どう思う?」と意見を聞き、それをまずは採用することで「意見が言える、通る組なんだな」という風通しを作る。そしてダメ出しは、絶対にみんなの前ではやらない。台湾だと、みんなの前で怒られたスタッフは「侮辱された」って帰っちゃうんです。そりゃそうですよね。わざとみんなの前で叱りつけたりマウンティングする人とか、すごくナンセンスだと思います。僕もまだまだ未熟なので、現場で熱くなってくるとフォーカスマンにめっちゃ怒ってしまい、後で「ごめん」って謝ったりもしていますが、会議では絶対にやらない。彼らの助手たちが、それを見ることになってしまいますから。
This content is imported from YouTube. You may be able to find the same content in another format, or you may be able to find more information, at their web site.―2015年に作った『7s』では、自主映画の制作の苦労や、生々しい残酷さを描いていました。その当時、どんなふうに思っていたのでしょうか?
僕は体罰とか普通だった時代に剣道をやっていて、忍耐力があったんですよね。だから20代はどんなことあっても、全部プラスに捉えられていて。ただその裏で泣いている人がいるのは、やっぱり見えちゃうじゃないですか。自分が良ければいいじゃなく、そういうものは変えたいですよね。ただし言葉でなく行動で。その方が単純にカッコいいので。
―自分がした苦労を、下の世代にはさせたくないと。
もちろんです。僕たち世代には「蜘蛛の糸」は1本だけだったけど、10本垂して自分に合う糸を選べるようにしていく。本当に業界を変えたいのなら、今回のような企画にもっとお金を使うべきだと思うんですが、日本の映画業界には「既得権益」「日本映画村」みたいなものも確実に存在しているので。僕たち30代の仕事は、ルールに縛られず、それを根底から変えてゆくことです。才能のあるクリエイターが、自分の作家性を大事にしながら作品を作っていける土壌を作ること。方法はあると思います。それこそ配信とか、海外とのプロジェクトを作っていくとか。大手の映画会社にも同じ考えの人はいるので、定期的に情報交換して新しいブランドを作っていくことも大事だと思います。
AFLO―国際的な活躍は視野にありますか?
20代の頃からずーっとあります。海外の監督、プロダクション、スタッフと仕事をして、そこで得たものを日本に持ちかえることも、今後の目標です。中国映画が10年~5年くらい前まで、現場に日本の監督やスタッフをすごく入れていたんですよ。おそらく中国の映画人たちのクリエイティブを変えようという意図で。日本でもそういうことがやっていけたら。まだ叶ってはいませんがーー続報をお待ち下さい(笑)。
1.監督になったきっかけは?
TSUTAYAです。高校時代、部活帰りに地元の駅前から徒歩1分のTSUTAYAに寄って、映画1本借りて帰るのが習慣でした。高校時代はミニシアター全盛期で、見てもわかんないのにウォン・カーウァイをとりあえず借りるみたいな感じで。でもあの頃の「分からなかった」っていう感情が一番大事だったなと思いますね。
2.好きな監督、映画は?
最も傾倒した監督はウォン・カーウァイ。『恋する惑星』とかめっちゃ好きです。大学時代は配給会社プレノンアッシュの「飲茶倶楽部」に入会して「香港電影通信」とか読んでました。今一番尊敬する監督は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。『Beautiful』が大好きで、当時は激重(おも)の作品ばっかり撮ってたんですよ。それがその後の『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『レヴェナント 蘇りしもの』ではユーモアを取り入れていて、「この人はどんどん成長しててすごいな」と思いました。
3.オールタイム・ベストを3本挙げるとしたら?
『エターナル・サンシャイン』『恋する惑星』、「日本映画も入れなさい」と言われたら、『スワロウテイル』ですかね。岩井俊二監督の映画も大好きなんです。映像詩ですよね。
4.今後映画業界を志す若い人に……っていうか、若い人が入ってきてます?
いや、ぜんぜん。ただ最近は女性がすごく優秀になってきてる感じはありますね。僕の組でも監督チームの半分は女性です。気が利くし、自分の仕事をちゃんとまっとうしようとする。男の子の方がプライド高いですよ。20歳の時の自分を見てるようです(笑)。
5.本作では「退屈が一番」というセリフが心に残りました。「退屈だな~」と言いながら過ごしていた日常が、思えば一番幸せだったなと。
そうですね、まさしく。それでも人生は続くわけで「くよくよしててもしょうがないな」という思いはありました。そうは言えないようなこの一年間を励まし肯定できるような、例えば10年後に別の何かが起きた時に「見ようかな」と思えるような作品にしたかったんです。短編映画ってゆくゆくはiPhoneで持ち歩くみたいな形で楽しめるようになるといいですよね。
『DIVOC-12』
12人の監督と豪華キャストの共演による12本の完全オリジナルストーリーで紡がれ、未だ体験したことのないエンタテインメントを詰め込んだオムニバス映画。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けているクリエイターや制作スタッフ、俳優の継続的な創作活動を支援するためソニー・ピクチャーズ エンタテインメントが発足した映画製作プロジェクト。映画制作を牽引していく3人の監督は藤井道人監督、上田慎一郎監督、三島有紀子監督で、日本映画界を代表する 3 監督たちそれぞれの元に、一般公募より選ばれた新人監督含めた 9 名が集い、3 チームごとにテーマを掲げ、映画制作を行った。
2021年10月1日(金)公開。公式サイトを見る
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