では、そんなSP2000Tを、音楽のプロはどう評価するのだろうか。
fripSideの八木沼悟志氏にも聴いていただき、音質のインプレッションをしていただいた。
八木沼氏は、2002年にfripSideを結成。多くのゲーム向け楽曲を手掛けた後、2009年には声優の南條愛乃さんをボーカルに迎え、アニメ「とある科学の超電磁砲(レールガン)」1期オープニングテーマ「only my railgun」発表。以降もアニメやゲーム、それに留まらない多方面で活躍を続けている。
fripSideの八木沼悟志氏幼稚園の頃から、FMラジオをメタルテープでエアチェックするほど音楽好きだったという八木沼氏。今でもカセットテープのサウンドを愛し、程度の良い中古のデッキを見つけると衝動買いしてしまうほどだという。また、父親がオーディオマニアだった事もあり、子供の頃からハイクオリティなサウンドに触れ、オーディオ機器やガジェットにも造詣が深い。ラックスマンのアンプを分解して父親から怒られた事もあるそうで、筋金入りだ。
ピアノ講師の母親の影響もあり、幼少からピアノを始め、シーケンサーを入手したのは中学校1年生。高校生の頃にはバイトで貯めたお金でDTM用の機材を買い集め、多数のハードをMIDI接続、自分で作曲した楽曲の再生をスタートすると同時に、MTR(マルチトラックレコーダー)で録音も開始、「実家のブレーカーを落として怒られていました(笑)」(八木沼氏)なんてエピソードも。
そんな八木沼氏なので、当然ポータブルオーディオプレーヤーも愛用。普段からAKのプレーヤーをレコーディングなどの仕事や、プライベートにも活用しており、それが縁で、2019年には、八木沼氏が監修したコラボハイレゾプレーヤー「A&futura SE100 fripSide Edition」も誕生した。
八木沼氏が監修したコラボハイレゾプレーヤー「A&futura SE100 fripSide Edition」この「A&futura SE100 fripSide Edition」は、fripSideをイメージしたデザインになっているだけでなく、fripSideの楽曲「crying moon」を、全てハイレゾで改めて制作し直したものをプリインストール。さらに、PCゲームに提供してきた楽曲を一枚にまとめたアルバムも、全曲ハイレゾリマスターでプリインストールするなど、非常に豪華な一品。199,980円(直販価格)と高価にも関わらず、限定500台が1カ月で完売した。
コラボモデルについて八木沼氏は、「本当に光栄で、今でもコラボプレーヤーを愛用しています。自分にとっての宝物ですね。プリインストール曲も“このプレーヤーで、この音を聴いてほしい!”という思いで、1からハイレゾで、徹底的に綺麗な音で作ろうと、チームのメンバーと話し合ったのを覚えています」と振り返る。
コラボモデルのSE100で、プリインストール曲を聴いた八木沼氏は、そのサウンドクオリティに感動した一方で、「ちょっと綺麗すぎると感じる部分もありました」と語る。「逆に、少し汚してもよかったのかなと思う部分もありました。綺麗過ぎると、僕らの音楽では“失われる部分”があるんだな、という事にも気付けました。そういった意味で、良いアプローチではありましたね」。
綺麗なサウンドというのは、クリアさやダイナミックさを追求する、いわゆる“優等生なサウンド”と言い換えられる。一方で、スペックよりも“独特な温かみのあるサウンド”の良さもある。これはまさに、SP2000Tのオペアンプと真空管アンプの関係、そのものと言えるだろう。
そこでSP2000Tを聴いた印象を聞いてみると、「僕、このプレーヤー大好きです。今までのAstell&Kernの中で、一番このモデルがヒットです」と大きくうなずく八木沼氏。
「トリプルアンプシステムは、オペアンプと真空管、その中間のハイブリッドが選べますが、ハイブリッドモードの絶妙なさじ加減が最高ですね。オペアンプと真空管のミックスする具合は5段階から選べるのですが、僕はちょうど“ど真ん中”、オペアンプと真空管アンプの“いいとこどり”の設定が一番好きですね」。
「真空管だけのモードも良いのですが、曲によっては凄くハマる一方で、曲によっては他のモードに変えたくなる時があります。ですが、ハイブリッドモードの“ど真ん中”設定であれば、どんな曲でも大丈夫なので、個人的にはずっとこの設定で良いと思います」。
トリプルアンプシステムの設定画面。一番右下を選ぶと真空管モード左下はオペアンプモードこれが八木沼氏オススメのハイブリッドの中間モード中間からさらに真空管寄りの音にという具合に、カスタマイズが可能だ実際にハイブリッドモードで様々な音楽を楽しんだ八木沼氏。特にオススメだったのは、「生演奏の深みのある曲が良いですね。ジャズやクラシックのオーケストラのような温かみのある曲にはもちろんマッチします。特に、カントリー聴くとすごく良いんですよ。これは体験して欲しいですね」。
そしてやはり、fripSideの楽曲をSP2000Tで楽しみたいという読者も多いだろう。SP2000Tはプレーヤーとしての基本的な能力が高いのでどの楽曲も楽しめるが、八木沼氏が特に“オススメ”というのが「fripSideの2009年から2020年までのバラードソングを網羅したバラードベストアルバムの『the very best of fripSide -moving ballads-』ですね。これを是非SP2000Tで聴いて頂きたいです」。
バラードベストアルバムノ『the very best of fripSide -moving ballads-』さらに八木沼氏は“リマスター盤とも相性が良い”と語る。「昔の楽曲が、リマスターでハイレゾになるものって多いじゃないですか。ただ、そうしたリマスター盤を聴くと、音楽のおいしい部分が無くなってしまったような、CD盤とあまり変わらない、ホントにこれハイレゾなの? という“残念なリマスター盤”ってありますよね。あれを真空管モードで聴くと最高なんです。これはホントに驚きました」。
では、fripSideの楽曲を真空管モードで聴いたら、どうだろうか。「ハイブリッドモードで聴くと、キレやビートがほどよく甘くなって、非常に気持ちが良かったです。僕らみたいな音楽でも、こういう風に鳴らしてくれると、“これはこれで良いな”という新しい発見がありました。今までは、スペックを重視し、とにかく“ハイレゾ、ハイレゾ”と進化してきたポータブルプレーヤーの流れに、一石を投じるような……新しい面白さに気付けるプレーヤーだと思います」(八木沼氏)。
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