「DXパートナー」を掲げ、ビジネス変革サポートの製品開発と、社員の挑戦マインドを引き出す意識改革で成長を続けるシステム開発会社「YE DIGITAL」(北九州市)。安川情報システムからの社名変更から3年、就活学生の九州・人気企業ランキングに顔を出すなど注目度が高まる同社の遠藤直人社長(66)に、DXに対する考え方と自社の成長戦略を聞いた。
インタビューに答える遠藤直人社長=北九州市――コロナ下で加速するDXですが、今改めて、「DX」という用語をどう定義しますか
「まず、『DX』と『IT化』は違うということは確認しておきましょう。混同している人が相変わらず少なくない。新しいシステムを入れて、『今まで3人で取り組んでいたことが1人でできるようになった』とか『お客さまを待たせる時間が20分短縮できるようになった』というのはIT化です」
「DXとは『情報の管理である』と私は定義します。今まで人が繰り返しやってきたもの、勘に頼ってきたものを全てデータ化し、データの蓄積によって推測し対応できるものはAI(人工知能)を使う。今後は『繰り返す作業』はほぼAIによってできるようになるでしょう。つまり、これまで情報化されなかったものをデータ化することで生まれる『効果』、それがDXです」
――YE社自体がDXによって3年間で労働生産性が20%上がったそうですね
「日本の企業に必要なのは、製造業は『働き方改革』、非製造業は『労働生産性の向上』です。いずれもDXに取り組まないと、繰り返しの仕事を社員に続けさせることになり、会社、社員の成長につながりません。労働生産性が20%上がるということは、1年かけてきた仕事がおよそ10カ月で終わるということ。残りの2カ月で今までできなかったことができるようになります。社員が就業時間中に教育を受けられるようにすることもできる。つまり、働き方が変わっていきます。これもDXの効果です。これをやらないから、日本の国際競争力が低下しているのだと思います」
――労働生産性を上げるため、自社では具体的にどのような取り組みを
「例えば、コミュニケーションツールを活用し、一部の部署で1週間に一度、上司と『(翌日以降の)1週間のToDo(やるべき作業)』を打ち合わせるようにしました。いわゆるジョブ管理への移行です。すると、(打ち合わせの際に)『1日の勤務の8時間が埋まらない』という現象が起きました。そのときに『時間が余ったことが悪いと思わずに、余った時間で何をするか考えよう』と促すようにしました。このように、『仕事の見える化』をするだけでも生産性が上がり、社員の気付きがあり、残業時間も減るという効果が出ました」
――DXパートナーとして、DX化が特に進んでいると感じている業界は
「物流ですね。人手不足が深刻になる一方で、EC(電子商取引)の取り扱いが増え、これまでの在庫管理では対応ができなくなったうえ、自動搬送機を使って出荷コントロールをしなければならなくなりました。その効率的な運用のために必要なのが『データ』です。過去の季節別、気温別、時間別などさまざまな条件下のデータを取りそろえ、需要や稼働の予測をAIで導きだすようになっています。トラックの待機時間の短縮が長く課題でしたが、データを使って予測度の向上を図り、最適化が進んでいます」
――DXの成否はデータ活用にかかっていると
「そうです。普段やっているコミュニケーション(情報の伝達)を全てデータ化し、ツールを上手に使うこと。うまく使うことができれば、おのずと生産性は上がり、DXは成功します」
――21年、総務大臣賞を受賞したデジタル化したバス停「スマートバス停」事業の現状と今後の見通し、課題は
「当初はバスの時刻表の張り替え作業の省力化を目的にスタートしました。しかし、コロナ禍によりバス事業者が疲弊し、公共交通機関の維持、DX推進の観点からスマートバス停の需要が生まれ、国や地方自治体による導入支援の動きが広がってきています。赤字が続く地方の鉄道路線をバスなど他の交通機関に転換する動きもみられ、需要は確実に拡大すると見込んでいます。当面の数値目標は現在の受注ベースの100基から『3年以内の1千基』に置き、全国展開を加速させます。そのために必要なのは、スマートバス停によるさまざまな『効果』の可視化と情報発信です。設置することによる効果を積極的に伝えていくことが大切だと考えています」
畜産の現場から反響
――農業、畜産領域でのICT(情報通信技術)活用への関心も高いようです
「畜産に関しては、畜産農家で進む高齢化の現状を聞き、助けることができないかと考えたことがきっかけです。(高さ6〜8mの)飼料タンク内の飼料の残量が自動計測できると、日々のタンクを上り下りする労働負荷が減るという話になり、わが社の技術部隊が残量監視システムを開発したところ、検証導入いただいた農場からの反響が大きく、本格提供を開始する3月を前に数千台規模の注文をいただいています」
「そのことがきっかけで、豚舎のDX化ができないかということにもなりました。個々の豚が食べている餌の内容や成長状況、運動量などのデータを集め、よりおいしい豚に育てる。今の子供たちはサステナブル(持続可能)の教育を受けているので、大きくなったら、この豚は成長過程で、どこで何を食べてきたのかと絶対気にするはずです。そういう人たちのために畜産DXはいるでしょうし、日本の畜産はそういうところで差別化していくのではないでしょうか」
――社名変更からおよそ3年。コロナ下でも業績は好調に推移しているようですが、さらなる成長のための基本戦略は
「『世の中のためになる、認められるプロダクトを作る』ことにエネルギーを注いだ3年間でした。次の3年は『(そのプロダクトが)お客さまに選ばれる企業になる』ことを目指します。そのための体制も整えつつあります。新たな中期経営計画がスタートする3月1日には全社員に『デジタルの力で暮らしに明るい変革を!』と呼び掛けるつもりです」(聞き手 植野伸治西部代表)
遠藤直人(えんどう・なおと) 1976年、安川電機製作所(現・安川電機)に入社。78年にIT部門の分社化で設立された安川情報システムに転籍。取締役営業本部長、副社長執行役員サービスビジネス本部長を経て、平成30年から代表取締役社長。YE DIGITALへの社名変更は2019年。売上高は144億8千万円(21年2月期)。
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