今や、ブルーレイ機器、ゲーム機、パソコンに留まらず、デジカメやカーナビに至るまでがHDMI端子を搭載している。
HDMIが普及したのは、2005年前後あたりから。家庭用ゲーム機として最初にHDMIを標準装備したのは、ソニーのPS3だった。PS3で採用したのはHDMI1.3。伝送速度にして最大10.2Gbpsの帯域があった。ただ、PS3のHDMIは、HDMI1.4で規格化された3D映像出力にシステムアップデートで対応するなど、かなり将来性の高い柔軟な実装となっていた。
PlayStation 3PS4では、これがHDMI1.4へと進化。最大伝送速度は10.2Gbpsのままだが、広域な周辺機器への連携対応が行なわれ、AVアンプなどへの接続利便性を向上した「オーディオリターンチャンネル」(ARC)、HDMIのデータ伝送チャンネルをLAN接続に転用するHECなどが盛り込まれた。
PCやAV機器では、HDMI1.4の帯域範囲(10.2Gbps)で、4K(3,840×2,160ピクセル)解像度を伝送する応用事例も見られた。ちなみに、10.2Gbpsの範囲内での4K伝送は、RGB888あるいはYUV444の色深度で30fps、YUV420まで色解像度を落とせば60fpsの伝送が可能だ。
2015年以降、HDMI2.0が一気に普及機へと広まる。背景には4Kテレビの普及、4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)の登場、PS4 Proの発売といった事象が強く影響した。
2015年11月に発売した、世界初Ultra HD Blu-ray再生に対応したパナソニックレコーダー「DMR-UBZ1」2016年6月に発売した「マッドマックス 怒りのデス・ロード <4K ULTRA HD&ブルーレイセット>」HDMI2.0では、あらゆる色深度モードで4K/60fps伝送が行なえるよう、最大伝送帯域が18Gbpsへと高められた。UHD BDの誕生とともに規格されたハイダイナミックレンジ(HDR)映像のサポートも、このHDMI2.0で規格化された。
2016年には、4K/HDR対応ゲーム機としてPS4 Proが登場。この時も、従来型PS4に対してHDMI1.4のままHDRに対応する特別なファームウェアのアップデートが提供されている(ただし4Kは未対応)。
PlayStation 4Xbox One XHDMI2.1規格は2017年に誕生するも、トランスミッターやレシーバーのチップ開発と普及が遅れ、事実上の普及期は2020年前後からだ。
登場の契機となったのは、8K(7,680×4,320ピクセル)テレビの発売。従来のHDMIの伝送方式のまま8K/60fpsに対応させると、計算上は72Gbpsの伝送帯域が必要になる。しかしこれは、現状のHDMI規格の伝送方式では実現不可能と判断された。
結果、HDMI2.1は“物理的なHDMI端子”規格だけを流用しながらも、各端子の機能割り当てや電気信号特性など、ほとんど全てを刷新し(詳細は後述)、「もはやこれをHDMIと呼んでいいのか」というくらいの仕様変更を行なった。
しかし端子形状が同じなのに「繋げても使えない」では、ユーザーが不便に感じてしまう。そこでHDMI2.1では、トランスミッターやレシーバーのチップにバージョン違いを認識して動作モードを切り換える“賢さ”を与えて互換性を維持することにした。
ちなみに、インターフェースチップにこうした“適応型の賢さ”を与えることで、バージョンごとに全く技術基盤の違うデータ伝送方式を採用しながらも、手堅い互換性を維持している身近な規格がBluetoothである。
で、このHDMI2.1。
とても頑張って規格化されたのだが、最大伝送帯域は48Gbps止まりだった。要求された8K/60fps伝送に必要な72Gbpsは達成されなかったことになる。
そこで、DSC(Display Stream Compression)と呼ばれる、ライセンスフリーのリアルタイム非可逆圧縮技術を導入することで8K/60fpsに対応させることにした(8Kの24fps、30fpsであればDSC圧縮せずに伝送可能)。しかし非可逆アルゴリズムゆえ、このDSC圧縮によって画質は劣化してしまう。ついにHDMIは、バージョン2.1にして「デジタル伝送なのに画質劣化を許容する規格」となったワケだ。
HDMIで規定されている解像度・フレームレートを記した一覧。「Speed」の欄が、伝送可能なHDMIケーブルを指している。“赤字でUltra”となっているのが、圧縮伝送しなければ伝送できない信号。8K/60fps 4:2:2 10bitや、8K/120fps 4:2:0 10bitなどがこれに該当する現状、ゲーム業界においては、8K/60fpsには関心が薄い。8K/60fpsを安定して描画できるGPUが今のところ普及していないし、8K/60fps映像を表示できるディスプレイもそれほど普及していない等の理由があるためだ。
8Kのグラフィックスを60fpsで安定的に描画するのは、PS5では全く無理。超ウルトラハイエンドGPUならば不可能ではないが、それでも敷居が高すぎる。8Kテレビ自体は価格が下がってきたが、8K放送はNHKのBS8Kのみで、8K環境導入の魅力が薄く、訴求力が足りないのだ。
その一方で、HDMI2.1で可能となる「4K/120fps」は、リアリティをもってゲームへの対応が考えられている。
たとえば10TFLOPSクラスのGPUを搭載するPS5、Xbox Series Xの場合、グラフィックス品質がそれほど高くないことが許容されるeSports系ゲームであれば、4K/120fpsの実現が十分視野に入る。またPCゲーミングでは、20TFLOPSオーバーのハイエンドクラスのGPUであれば、かなり高品位なグラフィック品質でも4K/120fpsが実現出来るようになりつつある。
4K/120fpsの伝送には計算上、36Gbpsほどの帯域が必要になるのだが、これはHDMI2.1の最大伝送帯域の48Gbps内でカバーできるため、前述したDSC圧縮を用いずに伝送できる。
4K/120fpsの場合、4:4:4 12bitまでは非圧縮で伝送できるそうそう。前回の記事でも「念のために書いておくか」程度で触れたつもりだった「4K/120fps入力対応は倍速駆動対応とは別モノ」という注意喚起。けっこう、初心者の間では衝撃だったようだ。
中堅機以上のテレビでは「倍速駆動対応」(機種によってはフレーム補間機能と呼称されている場合もあり)という文句がスペック表やカタログに記載されているが、これは「4K/120fps入力対応」とは全く異なる機能なので注意したい。
「倍速駆動対応」のテレビは、入力された60fps映像を映像エンジンが不足している中間フレームを算術的に補間生成して120fps化して表示する機能であり、ゲーム機やPC側で120fps出力された映像をそのまま表示する「4K/120fps入力対応」とは全然別モノ。改めて注意しておきたい。
ソニー・ブラビアでの「倍速駆動」説明図。テレビで倍速駆動を行なう場合、同じコマを複数回表示、もしくは補間コマを挿入するのが一般的。こうした倍速機能と「4K/120fps入力対応」とは全く別モノなので注意このような流れもあり、いまゲーミングディスプレイを購入検討するなら、「4K/120fps入力できるHDMI2.1対応ディスプレイを選びたい」という、ユーザー心理が強まっているのである。
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あらためて総復習~HDMI2.1とは何か。その誕生経緯カテゴリー
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