東京五輪2020の開会式。
スマートテレビでの見られ方を調べる東芝視聴データ「TimeOn Analytics」によれば、世帯視聴率は42.5%。2016年リオ大会の14.7%と比べて約3倍となった。これは去年暮れの『第71回NHK紅白歌合戦』をも大きく上回る。
今大会については、メインスタジアムの建て替え問題をはじめ、コロナ禍による1年延期と無観客での実施や、閉開会式演出でのゴタゴタなど異例の出来事が続いた。
また開会式が始まっても、会場外では五輪反対派が抗議デモを行うなどで、世界からはいろいろな意味で注目されるオリンピックとなった。
その東京五輪の開会式。
ネット接続テレビの視聴率より、ビデオリサーチ(VR)の数字は高齢者の比率が高い分大きくなることが多いので、26日(月)に発表される同社データでは、世帯視聴率は50%前後になっている可能性もある。
では何故かくも高い数字が出たのか。人々は何処に注目し、どんな見方をしたのかを振り返る。
2016年のリオ五輪開会式は、日本時間の8月6日朝8時にスタートした。
当日は土曜で家にいた人が多く、午前中でも自宅でテレビを見られる人は多かった。NHKは『広島平和式典』の関係で、8時43分から総合テレビで12時まで中継したが、今回の開会式と比べ視聴率はかなり低かった。
関東地区で10万台を対象にしていた東芝の視聴データでは14.7%。
関東地区で600世帯を対象にサンプル調査していたVRの視聴率は23.6%。高齢者の比率が異なるためか、両者の隔たりはかなり大きかった。
ちなみに関東で5800人を対象に調査するスイッチ・メディア・ラボ(SML)だと12.8%。やはり違いは小さくなかった。
今回の東京五輪の開会式は、自国開催で夜帯の放送と好条件だったこともあり、高い数字が出た。
家族で利用するテレビ約34万台(関東地区の現時点)を調べる東芝の視聴データでは42.5%となった。ちなみにSMLも44.6%と、いずれも40%を超えた。
両社より高い数字が出がちなVRの視聴率は26日(月)に発表されるが、この分だと50%前後になっている可能性もある。
東芝の視聴データは、1秒毎の視聴率を割り出している。
これによると、開会式中継が始まった最初の10分で視聴率は10%急伸した。人々の関心が如何に高いかがわかる。
日本の国旗入場と掲揚、そして国歌をMISIAが歌うと、視聴率はさらに3%ほど上昇した。
さらに森山未來のダンス、真矢ミキが棟梁となった大工や火消しのパフォーマンス、「世界で観るべきダンサー25人」に選ばれた熊谷和徳のタップダンス、木製の五輪完成の後、ノーベル平和賞のムハマド・ユヌスが炭素排出量ゼロ・貧困ゼロ・失業ゼロの「3つのゼロ」を目指すというメッセージを寄せたVTRで47.032%と全中継の中の最高値となった。
ここまで始まって40分弱。視聴者の注目を一定程度集め続けた演出だったと言えよう。
ところがギリシャを先頭に選手の入場が始まると、視聴率は落ち始める。
200を超える国と地域の選手入場が続き、視聴率は6%ほどズルズルと下落していった。やはり同じようなパターンが2時間近く続き、飽きてしまった人がかなりいたと言わざるを得ない。
それでもアメリカ・フランスに続いて最後に日本が入場すると、数字は1.4%ほど回復した。「やはり日本人は日本人に関心がある」というテレビの法則通りの展開となった。
また2分ほど魅せた1824台によるドローンのパフォーマンスも0.2%数字を押し上げる健闘した。
ところが、このあと開会式に急ブレーキがかかる。
大会組織委の橋本聖子会長と、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長がやらかしてしまったからである。
橋本会長は7分ほどしゃべって0.6%数字を失った。バッハ会長に至っては13分のスピーチで2%視聴率が下落した。いずれも当初予定を大幅に上回る長くて退屈な話だった。
2人の空気を読まない演説で、天皇の開会宣言が開会式終盤の最低視聴率となってしまった。
それでも天皇の言葉はわずか14秒で、0.2%ほど数字を回復させた。SNS上では、これら一連への意見が少なくなかった。
「バッハ会長の話が長いのは、森喜朗の『女は話が長い』発言を体を張って否定しているからなのでしょうがない」
「なんかこの人謎に日本に対して上から目線ですよね」
「“国民の共感”を得るどころか、その薄っぺらい“感謝と称賛”は、反感を買う」
「全国の校長先生…夏休み明けの集会のお話の長さで、あだ名が陛下かバッハになるかがかかっておりますよ」
ちなみに視聴率全体の動向と比べ、性年齢別の個人視聴率は動きが異なっていた。
2時間近く続いた選手入場のパートは、男女50歳以上の視聴者が多く脱落したために、視聴率全体を押し下げていた。
ところが2層(男女35~49歳)は横ばいで、数字をほとんど落としていない。
逆にT層から1層(男女13~24歳)は数字を上げていた。
ドラゴンクエストやファイナルファンタジーなど、ゲームのテーマが何曲も流れた。各国のプラカードもマンガの吹き出しのようだった。
こうした演出が若年層には威力を発揮したのかもしれない。あるいは205もの選手団の入場で、世界や社会の多様性に反応した側面もあったのか。
筆者もさすがに長いと退屈したパートだったが、見る人によって別の感じ方があるということだろう。
ドローンによるパフォーマンス2分も反応が異なった。
T層と男性全般は数字を上げ、女性はおおむねフラットなままだった。ITなど先端技術への関心の持ち方が異なっているようだ。
ピクトグラムのパントマイムも波形が違った。
若年層の反応はあまりなかったが、2層以上の中高年は「面白い」と思ったようだ。『欽ちゃんの仮装大賞』を想起させる演出だったが、番組自体の認知度という意味で年齢による差となったのかも知れない。
冒頭でも少し触れたが、東京五輪2020はトラブルが続発した。
メインスタジアム国立競技場の建て替え問題にはじまり、大会エンブレムの盗用疑惑、JOCや大会組織委トップの交代、コロナ禍による大会延期、無観客での開催、閉開会式の演出をめぐるゴタゴタなどだ。
結果として五輪はまともに開催されるのか、逆に人々の関心を集めたのではないだろうか。
自分たちは自粛を強いられたのに、五輪だけ特別という恨み。コロナ禍のまん延を助長するという不安。こんな状況だからこそ希望を感じさせて欲しいという期待。アスリートには罪がないので頑張って欲しいという願いなどだ。
そこに開会式の演出関係者の、直前での解任や辞任が重なった。
「そもそも開会式はまともに行われるのか」「ハプニングが続出するのではないか」「最後まで無事にやり遂げられたら、それこそがハプニング」などの関心も集まった。
それが57年ぶりの東京でのオリンピック開会式を見ようという気持ちを高めたような気がする。
セレモニー自体には、さまざまな声がSNSに投稿された。
「恐れていたほどダメではなく、かといって凄く良かったというわけでもなく・・・」
「“とりあえず感”満載で情けない」
「先進国として大恥をかくのは避けられたのではないか」
「ドメスティックな連中に仕切らせてはダメ。これでは紅白歌合戦と同じレベル」
「好評、不評、いろいろあるでしょうが(中略)タイムラインが五輪一色の段階で勝ち」
とりあえず毀誉褒貶の中で、多くの人に開会式は見られた。
これから続く多くの競技がオリンピックの本番だ。さまざまな意見を飲み込み、最後は感動と達成感を残す大会となることを願って已まない。
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