新型アクアに採用された『バイポーラー型ニッケル水素電池』が話題になっている。記事を読むと、この電池は「バッテリー出力2倍」とか「パワフルでスムースな加速」とされ、燃費も格段に良くなったと紹介されてます。バイポーラー型ニッケル水素電池、そんなに素晴らしいものだろうか? ハイブリッド親方としてしっかり紹介したい。
まず結論から書くと、新型アクア、パワーユニットとしての性能(スペック)は兄弟車であるヤリスやヤリスクロスと全く同じ。この2モデル、搭載しているのはリチウムイオン電池。確かに先代アクアと比べたらバッテリー出力も加速感も大幅に向上しているものの、バイポーラー型ニッケル水素電池だから高い性能を実現出来たワケじゃない。
そもそもTHS-Ⅱと呼ばれるトヨタのハイブリッドシステム、エンジン出力やモーター出力、バッテリー出力は簡単に変えられない。だからこそTHS-Ⅱを使ったマツダ車も全く出力同じ。バイポーラー型ニッケル水素電池の性能ということで紹介するのなら「ヤリスなどに採用されているリチウムイオン電池と同じ」ということになる。
面白くなるのはここからです。THS-Ⅱ、今までも同じ車種でニッケル水素電池とリチウムイオン電池を混在して使ってきた。その場合、ベースとなっているのはバッテリー性能の低い前者。したがって高い性能持つリチウムイオン電池を使っても小型化出来ないし、性能も引き出せなかった。今までのハイブリッド車、性能低い電池に足を引っ張られていた。
そんなことからトヨタの電池開発担当者に「いい加減ニッケル水素電池は止めたらいかがか?」と問うたことがある。すると「まだまだ開発の余地もあるんです(笑)」。秘密兵器、バイポーラー型ニッケル水素電池だったということです。もう少し具体的な性能を書くと、新型電池はリチウムイオン電池と同じスペースで同等の性能を持つそうな!
いや、正確に書けば、同じサイズでいながらリチウムイオン電池の容量は4.3Ah。バイポーラー型ニッケル水素だと5Ahのため、むしろ小型だということになる。こうなると安価で安定した性能と耐久性持つ(歴代プリウスも先代アクアも電池寿命は30万km以上)ニッケル水素電池のメリットが出てくる! いやいや技術の進化って面白いです。
ちなみにバイポーラー型とはなんぞや? 普通の電池は乾電池と同じくセルが1つずつ独立している。イラストのようにセルの中は、それぞれ電気を流すための集電体と一緒になっている+極と-極、そしてセパレーターという構造。バイポーラー型は1つの集電体に+極と-極を貼り付けてあるため、切り離せないことを納得出来ればシンプルな構造になる。
鉄道ファンなら小田急ロマンスカーのような「連接台車」をイメージしていただければよい。構造がシンプルになるためムダな材料やスペースも無くなる。結果的に同じサイズなら容量を増やせるという寸法。冷却もしやすいという。何より「電池パッケージ」で比べたらリチウムイオン電池と同等以上の性能を持つというあたりが素晴らしい!
こうなると「なぜ今まで採用していなかったのか?」と思うだろう。今までの独立セルなら不具合セルあってもそれだけ交換すればよい。けれどバイポーラー型は1つの不具合あったら電池パッケージそのものが使えない。長い経験やたくさんのノウハウにより、製造時の不具合は出ないというレベルになったため採用可能になったんだろう。
いずれにしろトヨタは新しい“武器”を持った。THS-Ⅱのコストダウンも追求出来ることだろう。2050年のカーボンフリーの前となる2030年代中頃にハイブリッド車を含むエンジン搭載車は欧州と日本で販売出来なくなるが、アメリカや新興国などは当面の主力。欧州と日本もガソリンの販売が続くと思う2049年12月31日まで環境対応車として頑張ってくれる。
(国沢光宏)
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バッテリー性能は「リチウムイオン>ニッケル水素」と言われてきたのに今さらでは?カテゴリー
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