西日本旅客鉄道(JR西日本)とソフトバンクは9月27日、自動運転と隊列走行技術を活用したBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)の実証実験を、本年10月より滋賀県野洲市に設けた専用テストコースにおいて開始すると発表した。
この実験は、両社が今年3月に立ち上げた「自動運転・隊列走行BRT」の開発プロジェクトの一環として進められるもので、日本初となる連接バスの自動運転化および自動運転バス車両の隊列走行の実用化を目指して、専用テストコースの設置など実証実験の準備を進めてきた。次世代モビリティサービスとして2020年代半ばの社会実装を予定し、それまでに実証実験を通して「自動運転・隊列走行BRT」の技術確立とシステムの標準パッケージ化を目指していく計画だ。
実証実験を行なう専用テストコースは、滋賀県野洲市にある、JR西日本の車両基地があった網干総合車両所宮原支所野洲派出所内に設置。総面積は約2万2800平方メートルで、これは福岡PayPayドームの約1.7倍になる広さとなる。そこには総延長約1.1km、直線最長約600mのコースを用意し、コントロールセンターの他に駅・停留所、駐車場、交互通行ポイントなどを設け、踏切などを想定した一般道とのクロスポイントも設置。これらを駆使してあらゆる角度から検証を行っていく。
実証実験に使用する車両は、自動運転機能を備えた連接バス、大型バス、小型バスの3タイプの車両を使用し、車種が異なる自動運転車両が合流して隊列走行などが組める実証実験を行う。具体的には本線となる専用道には“合流駅”が用意され、専用道以外から来たバスがここで隊列を組める。逆に“分岐駅”ではバスが自動運転での隊列から外れて一般道へ入っていくことも可能となる。隊列走行時の車間は10~20m、停車時は1~3mで制御。隊列走行では最大4台までを可能する。また、早期の実用化を狙い、実証実験では60km/hでの走行速度を目指すという。
記者会見に登壇したソフトバンクの執行役員法人事業統括付(広域営業担当)兼鉄道・公共事業推進本部 本部長の清水繁宏氏はこの件について、「世の中の実証実験では15~30km/h程度で走行していると思うが、基幹網としてのBRTを想定したとき、それでは輸送能力としては落ちる。60km/hはあくまで目標ではあるが、障害物検知や信号機との連携なども含めて開発をしていく」と述べた。
また、清水氏は車両の誘導方法における自己位置推定技術として、「道路の種別によって様々な方法を検討中。GPSなどのGNSSを使う方法もあるし、カメラを介した白線による誘導、さらに磁気マーカーやジャイロセンサーを併用した方法も考えられる。ここではバリアフリーを考慮して、車体と縁石との感覚を4cm(±2cm)の正着制御も行う」とした。
一方、JR西日本としては「自動運転・隊列走行BRT」サービスについて、専用道による安全性・定時性・速達性があることを魅力の第一に挙げた。その上で需要に応じた柔軟な輸送力の確保や、他の交通手段と連携した一体的でフラットな交通網の実現、さらには自動運転の実現による運転手不足の解消や、鉄道よりもシンプルな設備によって生まれる低コストなモビリティサービスの実現も図れるといった点も大きな魅力になるとした。
この意見に関して西日本旅客鉄道 鉄道本部 理事 イノベーション本部長 久保田修司氏は、「BRTは線路を敷かずアスファルト舗装で運用でき、車両も大型バスを導入したとしても鉄道よりもかるかに安価で入手できる。さらには線路の保守点検を含めた維持管理に比べると道路はメンテナンスの手間がかからない。総合的にもBRT導入によるコスト削減は大いに期待できる」と述べ、BRT導入への期待を寄せた。
具体的なスケジュールとしては、2021年10月の車両の機能試験を開始した後、22年春頃には3種類の車両を使った隊列走行の試験に入る。そして、22年夏頃には乗降場への正着制御や車両の遠隔コントロールなどの運用面の試験を開始し、23年にはそれらの技術確立を目指す。ただ、現状ではどこで展開するかはまったく未定とのこと。
JR西日本の久保田氏は「先日、JR東日本の気仙沼線・大船渡線BRTに試乗してきたが、これと同じように鉄道からBRTに置き換えることも視野にある。大都市なら大量輸送が可能な鉄道の優位性は揺るぎないが、(BRTに最適な)中堅都市での街作りとの連携も模索しつつ実現につなげたい」とした。
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福岡PayPayドーム約1.7倍の敷地に実証実験専用コースを設置 専用道路であることを活かして運用速度は最高60km/hを目指す 安全性・定時性・速達性を備えつつ、鉄道比で大幅なコスト削減が可能カテゴリー
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