前回は「オンライン教育先進国」である米国と中国の動向と事例を中心に、オンライン教育に関する最先端を覗いてみた。
ユーザーの理解と主導するプレイヤー、そしてそのサービスを支える技術が両国には揃っており、新型コロナの影響で国内市場全体に「変わらなければいけない」という機運が芽生えたことによって、オンライン教育が急速に浸透したことがお分かりいただけたのではないだろうか。
では、これまでオンライン教育に対するユーザーの意識がそれほど高くない国ではどうだろうか。対面教育を元に高い教育水準を維持してきた日本をはじめとした国にとっては、この教育経験をそのままオンラインで代替させることは大きな困難をともなうことは想像にたやすい。
そこで、今回はそのような観点から隣国である韓国を取り上げつつ、教育の質の維持・向上から学生・教員の理解までインプットした上で、日本の現状を変える方針の示唆となるものを抽出していきたい。
韓国は日本をも凌ぐ「学歴社会」であることは耳にしたことがある方も多いのではないだろうか。それだけ教育に対して関心が高い一方で、オンライン教育の市場はそれほど大きくないことが実情である。
2004年に韓国政府が「eラーニング産業発展法」を制定し、デジタル産業支援を行うことで、2019年のeラーニング市場は2005年比で約2.7倍の3.8兆ウォン(約3750億円)となった。しかし、米国は2010億米ドル(約22兆円)ほどであるから、50分の1ほどの市場しかないことがわかる。
しかし、その韓国でもその潮目は変わりつつある。まず、これまで受験勉強・外国語教育が中心であったeラーニングのコンテンツが多様化しつつある。具体的には、eラーニングの分野のうち外国語教育の割合はこの5年で約10%程度減り、代わりに未就学児向け教育や趣味・教養などが数字を上げるなど、これまでコンテンツがなかった分野に広がりを見せている。
この韓国の潮流を牽引している目下最注目のサービスが"オンライン趣味・教養プラットフォーム”を提供する「CLASS101」だ。2018年3月のローンチとまだ3年余りしか経っていないが、累計ユニークビジター数が約3200万人、開講されているレッスンが約1900にもおよび、すでに日本と米国への進出を果たしている。
「CLASS101」このサービスでは、人に教えられる趣味を持つ人が自分のクラスを開講でき、習いごとを始めたい人がお気に入りの先生から学びを得ることができる。その中でも大きな差別化ポイントは「キット」と呼ばれるレッスン教材だ。
「講義を受けるにあたって何を準備すべきかわからない」と受講者アンケートに応える形で、レッスンに必要となる材料や素材を一式受講者に届けるサービスを追加したところ大ヒット。実際、多くのクラスで「キット」ありが前提になっているようだ。人気のあるクラスは運動や美術、スキルアップなどだが、有名人が講師を務めたり、人気YouTuberが財テクを教えるクラスもあり、その人気は新型コロナの影響もあいまって、今後ますます続きそうだ。
では、日本はどうだろうか。前回言及したように、新型の蔓延を受けて大学の約80%はオンライン教育を何らかの形で実施している。また読者の中にはオンライン英会話や遠隔学習システムをコロナ禍から使い始め、肌感覚としても教育のオンライン化を身近に感じ始めている人も多いのではないだろうか。
しかし、2020年の日本におけるオンライン教育サービスの市場規模は2460億円と、米国と程遠く韓国にもおよばないのが現状、つまりおしなべていうと教育現場がオンライン化の浸透を急速に進めているわけでもなければ、オンライン教育のサービスに応答するニーズも国民の中でまだ顕在化していない、こう表現できるのではないだろうか。
では、どのプレイヤーが今後日本においてリーダーシップを取れるのだろうか。国家の動きは如何ともし難いことから、民間主導で考えてみよう。
教育のオンライン化に際し、UX(ユーザーエクスペリエンス)目線で考えるべきサービスの指針として以下はいかがだろうか。
「既存教育をオンラインに置き換えるにあたり、もともとのUXの魅力を損なうことなくオンラインの価値を享受できること」
新型コロナの感染拡大にともなう緊急事態宣言の発令によって、大学の授業のほとんどは一度全面的な遠隔授業となったが、現在はその割合が減少し、かわりに対面と遠隔の併用が全体の9割を占めているようだ。この事例から、既存の教育をただオンラインに置き換えるだけではUXが維持できないことが示唆される。
では、たとえば最初から対面と遠隔を前提としたサービス設計にしてみてはどうだろうか。そうすればユーザーはこれまでのUXを損なわずオンラインの美味しい部分を享受できる魅力的なサービスになりそうだ。
また、中国の「猿補導」が提供する行動データの利用にみられるように、オンライン化を通じて利活用する技術は、これまでユーザーが気づいていなかった潜在的な課題を解決し、新しい教育のUXを生み出すことにもつながる。このように、既存のUXを保持しながら新しいUXを生み出すことが、ユーザーが自身のニーズに気づくきっかけを作り、日本の市場が広がっていくトリガーとなるであろう。
「猿補導」以下は先日、弊社(メディアシーク)が公開した日本のオンライン教育を推進する主要プレイヤーを各カテゴリに分類したカオスマップである。
ユーザーのUXをアップデートし、これからの日本のオンライン教育を引っぱるポテンシャルのあるサービスを中心にピックアップしているので、ぜひご参照いただきたい。この中からいくつかご紹介しよう。
プログラミングスクールの「DMM Web Camp」は、プログラミング未経験者から、スキルアップを目指す現役ITエンジニアまで、幅広い学習プログラムをオンラインで提供している。学習だけでなく、その後の就職や転職までサポートしている点が特徴的だ。プログラミング未経験者が最短3カ月で学ぶコースでは、転職・就職が決まらなかった場合に受講料を全額返金するなど、受講生のキャリアアップにコミットしている。
クラフトやお菓子作りなどのレッスン動画が月額2178円で視聴できる「miroom」は、韓国の事例でご紹介した“オンライン趣味・教養プラットフォーム型”のサービスだ。レッスンで使用する材料や道具をまとめたキットを割安で購入することもできる。これまではリアルに教室のあるカルチャーセンターが趣味・教養講座ビジネスの主流であったが、こういったサービスが増えていくことで市場のプレイヤーが変化していくことが予測される。
「miroom」三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートによると「オンラインレッスン利用で困ったこと」について生徒にアンケートをとったところ、レッスン内容、講師、通信の品質以外に「予約変更・振替等ができなかった」「中途解約したのに、受講料が引き落とされ続けた」といった「管理業務(予約管理、振替など)」への不満が多い結果となっていた。こうした管理業務の不満に対してはシステム導入で解決できる面も多い。たとえば弊社が提供する、複数の講師・講座・教室・生徒の管理機能と併せてオンラインレッスンを配信できる「マイクラスリモート」など、管理系のサービスも多数あるので、スクールごとの要件にあわせてご参照いただきたい。
全2回の記事では、他国の状況と先進事例を紹介しながら日本の課題を抽出し、民間のオンライン教育の事業者にとって解決策の1つとなるであろう示唆を提示した。サービスを提供するためにはその受け手がニーズを理解していなければならないため、こと日本のオンライン教育の現場では遅々として進んでいないように見受けられるかもしれないが、他国の事例のように、1つの施策やサービスをトリガーに市場は急速に広がりをみせうる。事業者の立場では、まずユーザーそのものに向き合い、既存のUXに立ち返って考えることで新しいイノベーションが生まれるのではないだろうか。
【著者情報】株式会社メディアシークカスタムメイドのシステム開発ソリューションと、豊富な開発実績から生まれたスクール管理システムパッケージ「マイクラス」のほか、LMS(学習管理システム)、各種Webサイト、スマートフォンアプリを提供している。マイクラスは大手カルチャースクールに導入され、10年以上の稼働実績を持つ。2020年11月にはオンラインレッスン管理プラットフォーム「マイクラスリモート」を提供開始し、スクール事業者のオンライン化を支援している。
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