麻倉:今年のIFAは日本として大きなトピックがありました。一昨年にスタートしたスタートアップが集うパビリオン「IFA NEXT」において、対象国の新しい動きをメインに伝える「パートナー国」の栄えある第1回対象国に、日本が選ばれたのです。既存産業は成熟が進んでおり、新しい技術を呼び込まないと大規模ショーの持続的な開催は難しいでしょう。新技術をどう呼び込むか、それを自分達でインキュベーションし、発表の場を創る。もちろん企業間の接触や商談はありますが、この制度を分かりやすく言うと、基本的にはマスコミに取り上げられる事が目的です。これはIFA全体にとっても重要な取り組みと言えるでしょう。
同様の試みとして、CESでも同じく世界中からスタートアップが集う「Eureka Park(ユーレカ・パーク)」が挙げられます。アメリカのCESにヨーロッパのIFAが対抗するという競合的な意味合いも、IFA NEXTにはあるでしょうが、やはり新しいことを創る、IFAとしての今後の方向性を出展者と一緒に育てていこう、という流れが大きく感じられました。そんな取り組みにおける初号パートナーが日本なのです。
流れとしては日本のイノベーションを世界に広める働きかけが運営の内部であり、今年4月のGPCで発表。出展に応じた日本企業は20ほどで、現地では画像処理や超指向性音声、ドローン技術などを展開するブースが見られました。最終日にIFAディレクターのDirk Koslowski(ディルク・コスロフスキー)氏に話を聞いたところ、今年はメディアから高い評価を受けているとのこと。こういった取り組みを仕掛け人に取材する際は「なぜ日本が最初のパートナー国に?」というのがよくある質問。実際コスロフスキー氏もこれを想定した応答を用意していたそうです。
ですがジャーナリストの疑問はそうではなく「来年も日本がやるのか?」というものでした。世界のジャーナリストの目には、日本が展開するIFA NEXTはその範囲があまりに広大と映ったのです。日本が持っているイノベーションの種、技術の引き出しは実に多彩で、音も映像もAIもドローンもといったように、ありとあらゆる分野に広がっています。これだけ要素が多いと、とても今回1回だけでは紹介しきれない。「そういう事ならば来年も日本が同様の展開を見せるのではないか」と世界の専門家は見た、つまりはそういう事です。
スタートアップのイノベーションを集めたIFA NEXTで、今年は日本がパートナー国に抜擢された。ドローンに画像処理にと、引き出しの多さに世界中のジャーナリストも驚嘆
新展開に対してプレスはそこまで深く読んでくれている、これはIFAを主催するメッセベルリンとしても、ありがたい発見だったようです。では来年以降はどうするかと言うと、今回同様に国単位でパートナーシップを結ぶかもしれないし、あるいはよりスポットを絞った地域などに焦点を当てるという話も出ている様子。今回初めて特定国とのパートナーシップを結んだということに対して、参加国としての打診も相次いでいるとのことです。
実際に現地を見てみると、昨年以上にIFA NEXTの賑わいを感じました。CESのEureka Parkもたいへん賑わっていますが、あちらはどこに何があるかがよく分からないほど広大過ぎて、どことなく巨大雑貨店「ドン・キホーテ」の様な雑多さを感じます。それに対してIFA NEXTは、丁寧に設計されたショーケースの様に上手く整理されていました。廊下の進み方をはじめとする導線もちゃんと設計されており、どこに何があるかが見やすい。色彩も木質をベースにIFAのイメージカラーである赤が来るという様子で、きっちりと一貫性もあります。落ち着いた中のわさわさした熱や仕事ぶりを見る、そんな巧みなパビリオン設計でした。
このパビリオンでは大型ドローンの活用を支えるエアロネクストにインタビューしました。産業で活用される大型ドローンはラジコンヘリの延長線上にある小型ドローンと比べ、旋回時の重心移動で安定性が損なわれるという物理的な問題が発生しやすくなります。エアロネクストはこの問題を解決する、重心安定の特許技術を持っているスタートアップです。イメージ的には機械時計におけるトゥールビヨンの様な感じの機能ですね。
同社は日本で4社、海外で2社と特許使用の交渉中で、話を聞くと「ヨーロッパに出て手応えを感じた」と言っていました。日本のスタートアップが化学反応を起こすには、自分達だけではなかなか難しい。しかし今回のようなお膳立てがあると、人がわんさか来る訳です。実際に取材中にも人が続々と来ていました。スタートアップパビリオンによって、IFAの事務局はこういう出会いの場を設定しているのです。全部に話を聞いたわけではないですが、これに乗っかった会社からは好評の声が聞かれました。
――日本のスタートアップは地理的に欧米との協業が難しいですから、こういうチャンスを活かしてほしいですね。あるいは今後、世界中のスタートアップがIFA NEXTの場で掘り起こされて、続々とオープンイノベーションを起こしてくれることを期待したいです。
エアロネクストは産業向けドローンで重要となる重心安定化の特許技術「4G Gravity」をアピール。法隆寺五重塔や東京スカイツリーを思わせる心柱構造を活用した日本伝統の制振技術が、現代の問題を解決する麻倉:IFA全体で言えることですが、テーマ的には昨年の延長です。オーディオビジュアル的には8K、全体的には5Gといった様子。IoTはあまり言われなくなりました。以前から熱心にIoTを訴求していたサムスンで話を聞くと、もはやIoTはトレンドではなく常識。今はIoTという通信基盤の上に乗せるAIを熱心にやっていますが、見た感じではどうもバズワードの域を出ていません。一頃の(あるいは今現在の)IoTの様に「色んな物に5Gを入れていこう」という掛け声はどこでも聞かれるものの、それを使って何をするのかという具体的(そして革新的・核心的)なアプリケーションがまだまだ出ていないといった感じです。
この流れ、地元ドイツの白モノ家電メーカーが積極的に叫んでいたことは印象的でした。例えばスマホだと、端末にAIが搭載されて各種サービスや家電機器などと連携する。こんな流れは白モノというジャンルとの親和性が高いわけです。「安心」「安全」「効率」「便利」といったところが、白モノ家電のあり方でありコンセプトでもあるので、そこへ通信が入って、IoTベースで互いに連携する、というのはとっかかりやすいのでしょう。白モノ(を展示するブース)を持っているIFA全体を通してみると、5GやAIは切実なスローガンとして出てきた感じがします。
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