クアルコムが年次開催するイベント「Qualcomm Tech Summit」にて、モバイル向けフラグシップSoC「Snapdragon 8 Gen 1 Mobile Platform」が発表となりました
米クアルコムが12月1日・2日の2日間、ハワイでSnapdragon関連の技術セミナー「Qualcomm Tech Summit 2021」を開催しています。初日にはモバイル向けの次期フラグシップSoC「Snapdragon 8 Gen 1 Mobile Platform」の詳細が発表されました。オンライン配信もされたイベントの内容から、新しいSnapdaragonのSoCについて詳細を解説します。【画像】GPUのAdrenoはレンダリング性能や省電力性能が向上フラグシップSoCがネーミングを変更クアルコムは近年、冬が始まるこの時期にこのイベントを開催し、モバイル向けSnapdragonのフラグシップシリーズを発表してきました。昨年(2020年)は全面オンライン開催としたイベントにて、Snapdragon 888シリーズを発表しています。これまで順調にケタが上がってきた「8シリーズ」のSoCが、次は「890」になるのか、はたまた一息に900番台へ繰り上がるのか気になっていたかもしれません。発表された次期SoCの名称は「Snapdragon 8 Gen 1 Mobile Platform」となり、今後しばらくはGeneration(世代)を表す番号が1ケタずつ繰り上がっていくネーミングになりそうです。プラットフォームの名称から「5G」が省略されていますが、「既に5G対応であることが当たり前」となったことによる決定だったものと思われます。Snapdragon 8 Gen 1 Mobile Platform(以下、Snapdragon 8 Gen 1)は、現行のSnapdragon 888シリーズから5G通信はもちろん、カメラにAI、ワイヤレスサウンド、セキュリティなど多く面が飛躍を遂げています。それぞれの進化を見ていきましょう。5G通信の全方位をカバー5G対応のSnapdragon X65モデム・RFシステムとアンテナモジュールは、2020年発表のSnapdragon 888シリーズ以降でプラットフォームに統合されたアーキテクチャを、Snapdragon 8 Gen 1も引き継いでいます。5G通信はミリ波とSub-6の両方をサポート。モデム部は下り最大10Gbpsの通信速度、5G標準化の3GPPリリース16をサポートしています。上り側通信は5Gキャリアアグリゲーションにも対応です。アンテナモジュール部は、ユーザーがスマホをどのように手に持っているかをAIにより解析。従来のモジュールよりも5Gデータ通信の速度・安定性を30%向上させ、通信に関わる消費電力削減にも貢献します。なお、Snapdragon 8 Gen 1は最先端の4nmプロセスルールによって製造されるSoCです。5nmプロセスルールを採用するSnapdragon 888シリーズよりもさらに集積度を高め、パフォーマンスと電力効率の向上を実現します。18bit対応の画像処理。8K/HDR動画キャプチャにも対応セミナーのステージに登壇したQualcomm Technologies社のProduct Management, Vice PresidentのZiad Asghar氏は、最新のSnapdragon 8 Gen 1 SoCを採用するスマホやタブレットなどのデバイスは通信に限らず、カメラ、AI、サウンド、ゲーミング体験、高度なセキュリティ性能といったさまざまな体験向上を実現できると説明しています。カメラに関連するデジタルイメージングの技術は、「Snapdragon Sight Technology」としてパッケージングする新たなブランドを立ち上げます。今後はモバイルゲーミングの「Snapdragon Elite Gaming」、オーディオの「Snapdragon Sound」のように、クアルコムのテクノロジーを採用するプレミアムカメラ機を差別化するキーワードとして、スマホメーカーがこれを活用できるようになります。スマホやタブレットなど 8 Gen 1が統合する画像信号プロセッサ「Spectra ISP」は、18bit対応にステップアップしています。14bit対応のSnapdragon 888と比較した計算処理能力は、4,096倍も向上しています。3つのメインISPにより、毎秒最大3.2ギガピクセルの膨大な画像データ処理を実現します。例えば、マルチカメラユニットを搭載するスマホが3つのレンズを駆使して、高度な写真・動画撮影を行います。また、ダイナミックメタデータを組み込んだHDR10+をカバーする「8K/HDR動画キャプチャ」も可能に。これはモバイル向けSoCとしては初めてとなる要素です。静止画記録は最大6,400万画素に対応。暗所での静止画撮影時には最大1,200万画素の画像をワンショットで30枚記録して、合成処理によって明るく色鮮やかな画像を生成するコンピュテーショナルフォトグラフィにも注目です。暗所撮影時の画像は約5倍の明るさが実現されるといいます。オートフォーカスや自動露出設定の高速化、最大300箇所の認識点を設定したより高精度・高速な顔認識アルゴリズムも組み込めるようになります。Snapdragon 8 Gen 1には、新たに「第4のISP」が搭載されています。組み込まれている箇所はSpectra ISPではなく、Snapdragon 865から設けられた低消費電力AI処理ブロック「Qualcomm Sensing Hub」です。AIの補助ブロックと連動するISPは、おもにフロントカメラ側のソリューションとして顔認証システムの高度化を担う「Always-On ISP」として位置付けられています。例えば、ユーザーが画面に触れることなく、フロントカメラをのぞき込むようにして画面をアンロックするといった操作が可能になります。高度な音声認識処理を可能にする第7世代AIエンジンSnapdragon 8 Gen 1は、高性能なDSP「Hexagon」を中核とする最新の第7世代AIエンジンを備えます。Spectra ISPと連動しながらAIエンジンを活用し、ボケ加工フィルターやARエンターテインメントを実現します。AIエンジンの処理パフォーマンスは、Snapdragon 888と比べて約4倍に向上。機械学習関連の処理性能を高めるTensorアクセラレーターは約2倍に高速化しました。共有メモリーの容量も2倍に増やし、処理能力に余裕を持たせています。駆動時の電力消費は1.7倍の改善が図られました。新AIエンジンの豊かな処理能力を土台にして、画像処理だけでなく音声入力による自然言語処理の精度向上も図れるとのこと。一例として、Sonde Health社と共同開発を進める音声パターン認識の技術が挙げられました。スマホのマイクがユーザーの声を聞き取り、ぜんそくなど健康状態のリスク要素を判別。アプリと連携してユーザーにアラートを届けるといった、高度なヘルスケア関連のサービスなどが組み込めるようになります。Bluetoothオーディオのロスレス伝送に対応。LE Audioも準備万端無線通信とオーディオに関連するパフォーマンスは、Snapdragon 888からの細かなブラッシュアップが中心です。セルラー以外のWi-Fi・Bluetoothの無線通信を制御するサブシステム「Qualcomm FastConnect 6900」を継承し、Snapdragon 888と同じくWi-Fi 6のほか、拡張規格のWi-Fi 6Eをサポート。最大通信速度は3.6Gbpsです。Bluetoothワイヤレスオーディオは、次世代プロファイルとして正式リリースが待たれる「LE Audio」への対応準備を完了しています。LE Audioの技術により、Snapdragon 8 Gen 1を搭載する1台のスマホから、同時に複数のワイヤレスヘッドセットに音声を送り出せる「ブロードキャスト」、ヘッドセット側でステレオ録音ができる機能などが備わります。モバイルコミュニケーションからエンターテインメントまで、幅広い機能向上が期待できそうです。2021年9月にクアルコムが発表した「aptX Lossless」のコーデックは、最大44.1kHz/16bitの「CD品質」に届く高音質オーディオ伝送をBluetooth接続で実現する技術です。Snapdragon Soundに対応する次世代のスマホと、Bluetoothオーディオ機器との組み合わせで使えるようになりそうです。SoC統合型SIMや自動車のデジタルキーなどを実現するセキュリティ機能モバイルゲーミング関連では、グラフィックス処理のコアとなるGPU「Adreno」をブラッシュアップ。Snapdragon 888と比べて、処理速度を約30%向上、電力効率を約25%高めています。グラフィックス面では、レンダリング処理効率を向上する最新世代の「Variable Rate Shading Pro」を搭載したほか、「Adreno Frame Motion Engine」テクノロジーにより動画を滑らかに表示します。Snapdragon 8 Gen 1には、SnapdragonシリーズのSoCとして初めて、スマホやタブレットなどの端末をよりセキュアに使う機能を実装する「Trust Management Engine」が統合されます。従来はカード型のSIMが担ってきたモバイル通信関連の接続・認証情報の管理を、SoCの一部として組み込み、よりセキュアに運用する統合型SIM(iSIM)が実現できるようになります。ほかにも、Androidスマホによる自動車のデジタルキー、デジタル運転免許証といった高いセキュリティ確保を必要とするアプリケーションに向けた、グーグルの新規格「Android Ready SE (Secure Element) Alliance」をサポートしています。グーグルとクアルコムの間では、ニューラルネットワークの開発領域で協業を強化する戦略についても発表。グーグルが2021年の開発者会議(Google I/O)で発表した、機械学習プラットフォーム「Vertex AI」に統合されるニューラルアーキテクチャ探索(NAS)を、クアルコムのSoCに組み込んで拡大を図ります。2022年のGoogle I/Oでは、クアルコムとグーグルによる新たな発表があるかもしれません。新SoC搭載スマホの発表・発売も間近最新のSnapdragon 8 Gen 1チップを搭載する商用端末は、早ければ2021年末にも、クアルコムのOEMパートナーから発売されるかもしれません。セミナーにビデオメッセージを寄せたシャオミのLei Jun氏は、次期フラグシップスマホの「Xiaomi 12」シリーズがSnapdragon 8 Gen 1を搭載する最初のAndroidスマホになると予告。日本のスマホメーカーでは、ソニーとシャープがSnapdragon Gen 1を搭載する端末の開発に名乗りを上げています。クアルコムのZiad Asghar氏は、現在モバイル端末に多く採用されているSnapdragonシリーズのSoCが、今後はコンシューマーと「メタバース」の仮想空間世界をつなぐ「まだ見ぬ新しいデバイス」にも採用が広がることを期待したいと述べました。イベントにゲストとして登壇したモトローラのRuben Castano氏は、同社が立ち上げたXR/VR/AR関連のソリューションに特化した開発チーム「312 LABS」にて、Snapdragon 8 Gen 1プラットフォームを生かした次世代の軽量スマートグラスの開発に注力することを宣言。Snapdragonの最新フラグシップSoCが、また大きな飛躍を遂げるときが近づいているのかもしれません。
山本敦
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