2/14 19:00 配信
(写真:不動産投資の楽待)
大阪府茨木市と京都府亀岡市の県境に、茨木台ニュータウンと呼ばれる住宅地がある。140世帯程度が暮らすこの場所は、茨木市の中心部から15キロメートルほどの山間部に位置している。土地神話がもてはやされたバブル期に開発された宅地の1つだったが、バブル崩壊とともに人が離れ、さらには開発業者が倒産して衰退の一途をたどった。いわゆる「限界ニュータウン」となり、住民の高齢化や空き家の増加、インフラ管理の困難といった問題を抱える一方、新たな移住者もいるという。この場所が、どのような道をたどったのか。そして、何が起きているのか。茨木台ニュータウンの、今を伝える。■バブル期に宅地売買が加熱阪急電鉄茨木市駅から車を走らせること、30分。茨木市が管理する公共施設の私道を抜けると、茨木台ニュータウンが現れる。それまでの山道とは一変し、空き家を含め200以上の家が立ち並んでいる。そもそも、どのようにしてできた場所なのだろうか。茨木台の土地を開発当時に購入し、現在はその土地で家庭菜園を営みながら生活する宮城さんに、当時の話を聞いた。茨木台ニュータウンは、摂津国と呼ばれた大阪府北方面にある。加えて、標高500mの山間部にあることから「北摂のマチュピチュ」の二つ名がついた。ところが、実際の住所は大阪府茨木市ではなく、京都府亀岡市である。茨木市の北部は都市計画区域だったため、自由に開発を進められなかったのだそうだ。それを知った開発業者が、隣接する亀岡市に目をつけたことが開発のきっかけだとされる。茨木台ニュータウンの開発は、1980年代後半ごろから開始された。その後、1989年以降に一般販売がスタート。全200区画以上の宅地は、販売開始後すぐに完売した。市内に向かうバスが1日3本しかないなどけっして立地がいいとは言えない場所だが、完売の理由は何なのか。「ここで生活するというよりは、土地を求めた時分だと思いますね」ここに住む宮城さんは当時を振り返った。土地の値段は上がり続けるため、土地を持っていれば儲かる―。バブル期には、こうした「土地神話」がもてはやされていた。あちこちの山を切り開き、宅地として売買することが流行していたという。宮城さん自身も、62坪の土地を1260万円で購入したそうだ。■バブルが崩壊し、「限界」化バブルが崩壊すると、状況が一変した。問題となったのは、インフラ管理だった。開発当初、道路や水道は開発業者が管理していた。しかし、業者はバブル崩壊からほどなくして倒産。現在は自治会が管理するものの、住人減少や高齢化のために維持が困難な状況だという。土地の価格も下がった。開発当時から約30年が経った今、ポータルサイトに掲載されている土地価格を調べてみると、1番高い値がついた区画でも400万円。宮城さんの購入価格とはほど遠い。土地を手放すオーナーが多く、うまく売却できなかった場合は土地や建物が放置されてしまうケースが増えている。「自分の買った区画がどこなのか、もうわからないという人もいる」と宮城さんは話している。空き家問題は、茨木台ニュータウンを取り巻く深刻な問題のうちの1つだ。街を見渡してみると、ひび割れて崩れそうな擁壁や壊れかけた家、誰のものかわからない建物が多く目につく。茨木台ニュータウンは、山間部の傾斜地を開拓してできた街だ。各住宅に擁壁が作られ、その管理はそれぞれの住宅の持ち主が行うことになっている。そのため、擁壁に補修が必要だとわかっていても、住宅の持ち主が不明な場合、危険を放置するしかないのが現状だ。最近も擁壁が崩壊し、ブロックが空き家に直撃する事故があったという。■新たな暮らしを求めて衰退が進む茨木台ニュータウンだが、新たに移住してくる人もいる。土地や建物価格の下落が、賃貸や別荘といった新たな需要をもたらしているのだ。児玉重成さんもその1人だ。茨木台ニュータウンから車で5分の場所に、養鶏場を経営する。10年前から茨木台に家を持ち、茨木市内の自宅と併用して2拠点生活をしているという。「毎日畑に行くので、前線基地のようなものが欲しくて購入しました」と話す。茨木台の家は、建築会社の社長の別荘だった物件。価格は、思った以上に安かったそうだ。こんな値段で買えるのかと驚き、ほぼ即決で購入を決めた。もともとサラリーマンだった児玉さんだが、52歳のときに心身の問題で仕事を続けるのが難しくなり、早期退職。養鶏場を始め、鶏の世話や農業の手伝いをする毎日だ。「会社員時代は、心身共に壊れてしまっていました。こっちに来て、じきに回復しました。すごく健康になって。人間として充実した生活ができたらいいと思っています」と晴れやかに語った。そんな児玉さんは、不動産会社の職員に連れられて来るまで、茨木台ニュータウンの存在を知らなかったそう。自身を振り返り、茨木市民のなかではこの場所があまり認知されていないのではないかと話した。「山暮らししたいという方に、茨木市から少し視野を広げれば値頃な別荘があるということをPRできたら、たくさんの人がいらっしゃるんじゃないかな」と笑う。■仕事用にも不便はない茨木台ニュータウンに、事務所を持つ人もいる。レトロオーディオの修理などを行う小山将司さんの事務所は、茨木市と亀岡市のちょうど境目。戸建の事務所自体は茨木市だが、建物の裏で営む畑は亀岡市だとか。以前は京都府の向日市に事務所を構えていたものの、おととしの10月ごろに地元の掲示板アプリで物件に出合い、移転を決めた。月にかかる費用は、家賃と光熱費、それから駐車場代をすべて合わせて2万5000円。移転前の4分の1に収まった。内訳は、2万円の家賃と事業用として借りるための消費税、水道料金2000円、駐車場代が1000円だ。「都会じゃありえない金額で、いいですよ。すごくリーズナブルで」と笑顔だ。茨木台の事務所は、モノ作りをするうえでは不便はないという。とても便利とまではいえないが、インターネットで何でも届くので事足りるそうだ。今の暮らしには満足する小山さんだが、街の将来には気がかりなことが。住人の平均年齢が70代と聞き、10年後はどうなるのだろうかと不安を抱いた。「僕らの世代やそれより若い世代がもっと入って活用してくれるような、カンフル剤になるようなことをやらないといけないでしょうね」と意気込む。介護の仕事に従事する増澤省太さんも、この街が活気づくのを心待ちにしている。増澤さんは、仕事の資料を安全に保管できる広い場所がほしくて、この街で新たに2階建て築30年の戸建を購入した。■3LDKの家を購入した増澤さん倉庫兼別荘として使用するこの家は、150万円で購入したものだ。茨木台ニュータウンに新たに住むには、自治体管理の水道を開栓する必要があるが、そのために新築に入居する場合で50万円、中古物件に入居する場合で37万円が別途かかる。増澤さんの場合、この料金を売主持ちにしてもらったのでより安く済んだという。これほど安く買えたのには、他にも理由があった。それは、物件の傾度が1度超えだったこと。国土交通省が出す品確法では、住宅の質を保つための基準が設定されている。許容範囲とされる傾度は、0.3度までである。増澤さんの購入した物件は、この基準を大きく超えた訳あり物件だったのだ。「売主さんはお父さんから相続された方で、もうこの物件を手放したいと思っていたみたいだったんですよ。最初からそんなに高く売ろうという気はなかったようですね」と振り返った。■再興の兆し見えるも増澤さんも、人口が増えない限りこの街の衰退は避けられないと考えている。ライフラインの管理を自治体で行っているため、各種修繕費なども住民が出し合ったお金でまかなう必要がある。住民が増えなければ資金も増えず、街の整備もできないのだという。こうした現状を受けて増澤さんは、まずは多くの人に知ってもらおうと、茨木台ニュータウンの紹介動画を作った。ニュータウン内を車で回りながら地域や自身の生活について話す動画をYouTubeにて公開したところ、90万回以上再生されるなど大ヒット。この動画をきっかけに、茨木台に興味を持つ人も多いのだとか。「YouTubeに動画を投稿してみてわかったんですが、実際にここで契約したがる人もかなり出てきているんです」と効果を実感している。例えば、家庭菜園に興味がある人。家庭菜園に活用できる土地の賃料も、茨木台なら1000円と安価だ。「自分の好きなように、思った時間に来て家庭菜園を楽しみたいという方が多いらしくて。ここなら水もいいですしね」と明るく話した。そんな増澤さんが実感しているのは、空き家問題だった。「土地を借りたいと思って一生懸命探すんだけど、結局見つかった土地の管理者が誰かわからないとかで契約に至らない方もいらっしゃる。もう6組くらい来ていますよ。空いているのに、所有者をたどれないんです」この問題を不動産会社側から語るのは、関西で不動産会社を営むYさんだ。茨木台ニュータウンの物件を買いたい人・借りたい人はいるのに、肝心の物件所有者が不明で仲介できないケースが後を絶たない。そんな状況を変えるため、所有者探しに奔走したときのことを話してくれた。まず足を運んだのは法務局。調査をしたものの、登記から時間が経っていたために物件所有者の住所は分からずじまい。次は亀岡市役所に連絡した。所有者の情報を得ようと試みたが、個人情報保護の規定が厳しくなったことから、こちらでも連絡先を得ることはできなかった。「茨木台だけではなしに、日本全国でこういった問題はあるんじゃないですかね。空き家問題の根本的な原因は、所有者と連絡を取る難しさにもあるんじゃないですか」とYさんは指摘する。「現所有者に連絡がつかないとか、そういった問題の解決が個人情報保護法に阻害されている。不動産業界の人間としては、そう思いますね」■住みよい未来へ向けて「リモートワークが普及し、その場で働かなければいけない、通勤電車に乗らなければいけないという僕たちの常識は壊れました」と増澤さん。そうなれば、茨木台ニュータウンに暮らすという選択もそこまで現実離れしたものではないだろう。市の中心地からは離れているが、不動産が安くて空気がおいしいと話す。このまま衰退するのも自然の流れだと思う、と述べる一方で、「YouTuberが来てもいいと思うんですよ。ネットがつながっているのでゲームもできるし、騒いでもさほど迷惑にはならないですし。住む人が入れ替わってもいいなと個人的には思っています」と展望を語った。増澤さんの最終目標は、茨木台ニュータウンにコンビニエンスストアを誘致すること。今は、印鑑証明が必要になったときなど、何をするにも亀岡市役所まで出向かなければならない。車で40分ほどかかるといい、利便性に課題が残る。コンビニエンスストアがあれば、各種手続きのほかにも荷物を受け取ったり、日常の買い出しをしたりなど、さまざまなことのセーフティーネットとして活用できるだろうと考えている。「この近くにはスーパーも何もないですし。身近なスーパーとしてはコンビニが1番いいかなと思うので、できる限り誘致はしたいと思っています」と前を向く。◇バブル崩壊を機に「限界ニュータウン」となった、茨木台ニュータウン。しかし、新たな需要やライフスタイルの創出により、移り住む人も出てきた。地域を活気づけようと、奮闘する人もいる。この場所が歩む道を、今後も見届けたい。
不動産投資の楽待
最終更新:2/14(月) 19:00
不動産投資の楽待
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