――この本を書くことになったきっかけを教えてください。まず湧川さんは、世界的に最先端モバイルテクノロジーの企業を渡り歩いて来られていますね。
湧川氏:日本では2021年は5Gイヤーだというので、とにかく5Gは凄いぞというイメージは広まったと思うんですが、ケータイからの3G、4G、5Gという流れで、「5Gって、スマホが速くなるんでしょう」という理解で止まってしまった印象があります。確かに5Gというのは分かりにくい。3Gは「どこでも電話ができる」、4Gは「スマホを使ってどこでもSNSが使える」という分かりやすいものがあったけれども、5Gにはこれだというものがありません。
5Gは、ネットワークのさまざまな要求に対して、いろいろな機能を提供できます。ユースケースとしても自動運転やスマートシティなどが言われています。しかし本当に大事なことは、完全にデジタルな無線ネットワークが、いろいろな産業の基盤インフラとなっていくときに、これを使って何をやるのかということであったはずだったと思うんです。それがまだあまり語られていないんじゃないか、もしもこのまま5Gが技術的にきちんと理解されないと、日本の将来にとってもよくないんじゃないか。そういう思いがありました。
――村井さんは、古くは「日本のインターネットの父」と呼ばれ、今は政府のデジタル政策についても助言する立場でいらっしゃいます。
村井氏:政府の会議やメディアの取材などで、5Gがどういうインパクトを持ちますか、私たちの生活ってどう変わるんですかってよく聞かれるんだけれども、では具体的にどういうところで活きてくるだろう、どうすれば重要さが伝わるだろうと考えていたんです。
例えば、今の4G時代のカーナビだと、位置情報は分かっても3次元の空間では把握していない。だから立体で重なっている首都高速3号線と国道246号の区別がつかないんですよ。でもこれから、ドローンが飛ぶとか、車椅子や乳母車で移動するとか、高齢者が歩くといったことをセンシングしようとすると、3次元の空間をワイヤレスで捉えること、一人一人が繋がっていることが不可欠になってくる。
これを技術面から言うと、計算と実空間、2次元の空間と3次元の空間を連動させる「デジタルツイン」と呼ぶ。けれども、パンデミックでオンラインでの活動が注目されるようになったり、VRやARのゲームが人気を博したりして、デジタル空間の中で我々の生活空間が変わっていくことの必要性がすでに広く認識されるようになっていることも感じるね。だからもうデジタルツインという言葉は知らなくても、きちんと説明すれば、その発想自体は特定の人たちや産業だけでなく、社会のみんなにとってインパクトがあるものだと理解してもらえるようになっていると思うんだ。
湧川氏:5Gというものの凄さは、インターネットを足場にして考えると分かりやすいと思うんです。インターネットというものは、eコマース、SNS、ニュース配信、動画配信、VR、電話やら、いろいろなものが乗る共通インフラです。どれか1つのサービスのためだけにインターネットがあるのではない。5Gもインターネットそのものなんです。5Gにおいてスマホはたくさんある軸の1つでしかなく、あらゆる産業がこの5Gにも乗ってくるのです。
――モバイルのテクノロジーだけでなく文化的な流れも含めたうえで、インターネットを視座にしてもう一度捉え直すべきだということですね。
村井氏:5Gは確かに重要な鍵だけれども、無線でインターネットに繋がるものをすべて使ってこそ社会基盤と呼べるものができる。この本のタイトルが電波でも無線でもなく「アンワイアード」である意味は、そういうところにあるとも言えるね。
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