■イヤホンブランドとしてのFiiOの評価を固める決定打!FiiOは、DAPやポータブルアンプの分野で評価の高い人気ブランドである。一方、以前まではイヤホンブランドとしての実力に、その評価が追いついていない印象もあった。おそらく「DAPやポタアンのブランドがイヤホンも出している」的な認識に留まってしまいがちで、イヤホンへの “本気度” が伝わりにくかったのかもしれない。だが現在、同社は幅広く積極的なラインナップを展開している。堅実な進歩と挑戦的な進化を重ね続け、その成果として今、イヤホンの分野でも同社の評価は確立されつつある。そう感じているイヤホンファンも少なからずだろう。そんなタイミングで登場した新製品「FD7」(実売税込7万9000円前後)は、その高まりつつある評価をさらに固める「決定打」になり得るモデルといえる。■ピュア・ベリリウム振動板がすごい!同社のラインナップの中で「FD」の型番は、シングル・ダイナミックドライバー構成採用モデルを表しており、おそらくFiiO Dynamicの略を型番名にしたものと思われる。このFD7は、その最新にしてハイエンドだ。まず注目なのは、口径12mmの「ピュア・ベリリウム」振動板の採用だ。振動板に求められる要素のうち、動きに応じて変形してしまわない頑強さ、動きへの応答性を高める軽さ、振動を伝える速さに注目して、主な金属素材の特性を比較しても、ベリリウムは、アルミどころかチタンと比べても圧倒的に頑強で、音を伝える速度も速く、比重も軽い。このように優れた材質の採用は、音響的優位につながる。その上でさらに注目してほしいのは、「ピュア・ベリリウム」振動板の「ピュア」の部分。ここに付く「ピュア」は一般的には、「他の金属との合金ではない純粋なベリリウム」の意味合いだが、イヤホンの振動板においてはもう一つ、「樹脂などを基材として、ベリリウムによるコーティングを施したものではなく、ベリリウム材そのものだけで成形されている」の意味合いも加わる。というか、むしろそちらの意味の方がより強くプッシュされるだろう。というのも、PET樹脂等にベリリウム・コーティングを施した振動板であれば、現在その採用例は数多くある。FiiOのラインナップでも、例えば1万円を切るエントリーモデル「FD1」がそうだ。対して、ベリリウムそのものだけによる振動板の採用例は、これまでにもあるにはあった。だが、それは主に、20万円とかする「超」ハイエンド価格帯での話。ベリリウムは加工性が著しく低く、イヤホンの振動板として精密成形するのは容易ではないからだ。つまり、その開発と製造コストを考えれば、それも無理からぬことと言える。だがこの「FD7」は、そのピュア・ベリリウム振動板採用にして、なんと8万円未満。破格だ!ピュア・ベリリウム振動板だけじゃない!革新的な音響設計■ピュア・ベリリウム振動板、だけじゃない!FiiOならではの音響設計を採用しかし、ピュア・ベリリウム振動板(の割に安い)というだけならすごいにはすごいが、そのすごさは別にFiiOならではのものではない。何ならピュア・ベリリウム振動板採用で、もっと安いイヤホンだってあるにはある。FD7の凄さであり魅力、それは「FiiOが開発してきたFiiOならではのダイナミック型イヤホン技術がまずあり、そこにピュア・ベリリウム振動板というピースが合流してきたことで生まれた、まさに “FiiOならでは” のダイナミック型イヤホンの究極形」ということだ。FiiOならではのダイナミック型イヤホン技術とは、「アコースティック・プリズム・システム」と「ボルカニック・フィールド機構」、合わせてセミオープン型構造の採用も、特徴的な要素となる。それらは、今年初めに発売された「FD5」にて初搭載され、 “音響設計に関する革新的なブレークスルー” として紹介されたものだ。つまり大枠としては、「FD5の基本要素を受け継ぎつつ、FD5ではベリリウムコーティングエッジ&Diamond-like Carbon振動板だったところを、ピュア・ベリリウム振動板としたのがFD7」という言い方もできる。そしてここで改めて述べておきたいのは、従来モデルのFD5は、もうその時点で素晴らしいサウンドを叩き出していたということ。そのことから、FD7の音の素晴らしさも、ピュア・ベリリウム振動板だけに頼ったものではないとわかるわけだ。むしろ、それらFiiOならではの要素があってこそ、ピュア・ベリリウム振動板の魅力を存分に引き出せているとさえ感じる。■「音響設計に関する革新的なブレークスルー」とは?さて、前述したように、FD7に用いられる “FiiOならではのダイナミック型イヤホン技術” はアコースティック・プリズム・システム」と「ボルカニック・フィールド機構」、セミオープン型構造の採用だと説明したが、それらの技術についても改めて確認しておこう。「アコースティック・プリズム・システム」は、振動板の前方と、振動板と音導管の間に置かれ、音導管内での音波の伝わり方を制御する役割を持つ機構だ。高域定在波の排除、音の拡散性の改善というのがその効果である。スピーカーにおいて、トゥイーターユニットの前面に配置される「ディフューザー」の発想や技術を、イヤホンに応用したものと説明される。逆に背面のフェイスプレート側に配置されているのが、「ボルカニック・フィールド機構」。こちらは「火山型形状ディフューザー」と説明されており、ドライバー背面の空気の流れや圧を、適切に制御する仕組みのようだ。その効果は、低域の定在波と歪みの低減、低域の拡散性の改善がなされるとのこと。そして、本機はセミオープン構造を採用している。カナル型イヤホンでは、ハウジング内の空気の圧を適度に抜くためのポートの装備は、決して珍しいことではない。だが、FD7はその手のポートとは異なる、もっと積極的なセミオープン構造だ。だからこそ、「セミオープンであることがこのイヤホンの特長です!」という点は、デザイン面でも主張されている。セミとはいえ開放型なので、完全密閉構造と比べて音漏れは大きめ、遮音性は低めとなることは否めず、それを弱点と考える方もいらっしゃるだろう。ただ現在の状況においては、それはさしたる問題ではないと考えるユーザーも、また少なからずなのではないだろうか。それぞれの考え方、リスニングスタイル次第だが、「音漏れや遮音性が問題になるのは、外で使う場合でしょ?でも外で音楽聴くのは、もう完全ワイヤレスに乗り換えちゃったんだよね。だからハイエンドイヤホンは、うちでじっくり音楽を聴き込むときに本領発揮してくれればOK!」といった方も多いはず。その他の注目ポイントとしては、FD5と同じく「音道管の交換によるサウンドコントロール機構」と、FABRILOUS社からのライセンス供与による「2.5/3.5/4.4mmプラグ付け替え機構」も引き続き採用する。音導管は、FD5では2タイプ付属だったところを、こちらでは3タイプに。この手のチューニング機構では、音導管に仕込まれたフィルターによって、音を調整する仕組みのものが多いかと思う。だがこちらのシリーズでは、主に音導管の内径の太さによって、音響を調整するとのことで、径の大きい音導管は空間の広さ、小さい音導管は低域重視、中間はバランス重視となっている。気になるサウンドをチェック!■ギター名演の演奏ニュアンスに、完璧に追従する超レスポンス!それではいよいよ、試聴レポート!組み合わせるプレーヤーには、Astell&Kern「SA700」を使用した。繊細な表現を得意としつつ、駆動力にも不足はないDAPだ。まずは、最もスタンダードで中間的な組み合わせと思われる、「バランスタイプの音導管/バランスタイプのイヤーチップ/3.5mmシングルエンド駆動」のセッティングから。それでは、ホセ・ジェイムズによるカバー曲「Just The Two of Us」にて試聴スタート。■ホセ・ジェイムズ「Just The Two of Us」……うん。このセッティングをスタート地点として、そこからセッティングを色々変えて、自分好みに追い込んでいく過程をお伝えするつもりだったのだが、いきなり文句なしに好みの音を出されてしまった。一聴して、帯域バランスはほぼ完璧にフラット。超低域や超高域の本当に両端まで見事なバランスで、中低域の膨らみや高域のピークといった癖は感じられない。例えばバスドラムの響きが、低域から超低域にかけての空気感として響く雰囲気も、しっかりと再現されている。この響きを全く再現できなかったり、響きの重心をミドルレンジに持ち上げて、もっさりとさせてしまったりするオーディオも少なくはないが、このイヤホンはさらっと正確にこなしてくれる。音の感触も印象的だ。やや硬質傾向ではあるが、質感が潰れたすべすべやツルツルの硬質さにはならず、滑らかさやしっとりさなどの手触り、肌触りも豊かに届けてくれる。人の声、ボーカルに耳を向けると、その感触は特にわかりやすい。また、あの鈍色に輝く金属の手触りをイメージしつつ、シンバルに耳を向けてみるのもよいかと思う。この曲と同じように、良質な録音であればそのイメージに導かれるように、金属質の微かなざらつきや、金属粉が舞い散るかのような響きの粒子を感じられることだろう。煌めくエレクトリック・ピアノの音色が揺らぐ場面などでは、空間表現のハイレベルっぷりも見せつけられた。感覚的すぎる話になってしまうが、何というか、音の置かれ方が「限られた空間に緻密に配置された」ではなく、「余裕ある空間に自然に配置された」ように感じられるのだ。セミオープン構造だからというだけではないだろうが、セミオープンらしい、まさに開放的な空間表現を期待する方も、満足させるものであることは間違いない。そのほかでは、ジョー・パスのソロギター名演「How High the Moon」を聴いてのインパクトも強かった。本作はフルアコースティックギターのアンプを通さない生音の録音であり、またこの手のソロギターにしては珍しい、ピック中心の演奏でもあり、演奏のタッチが強烈に生々しい作品だ。それをこのイヤホンで聴くと、弦に対するピックの当て方のダイナミクスやバリエーション、こちらの音はピックで弾いて、あちらの音は指で弾いてというニュアンスの違い、右手のピッキングで出している音と、左手のフィンガリングで出している音が入り混じることでのうねりなど…あらゆるギターならではの演奏ニュアンスが、素晴らしく届きまくる。そういったニュアンスの多くは、それぞれの音のアタック部分に強く表れている。それが “届きまくる” ということは、このFD7はアタックの再現性が極めて優秀ということだろう。入力に対するレスポンスが速く、そして正確。この点は、ピュア・ベリリウム振動板の貢献が特に大きいと想像できる。この曲に代表されるように、クリーントーンに近い音色で、タッチの豊かな演奏がされているギター音楽全般との相性は抜群!ということを、強くお知らせしておきたい。ほか、ジミ・ヘンドリックス「Little Wing」も最高だった。音導管/イヤピースの組み合わせも検証!■音導管とイヤーピースでのチューニングさて、筆者自身としてはそこに頼るまでもなく、いきなり大満足になってしまったのだが、音導管とイヤーチップの交換によるチューニングについても、簡単にではあるが紹介しておこう。音導管は前述のように、以下3タイプが付属する。●内径大/緑:超高音域のディテールに優れる●内径中/黒:バランスのとれたサウンド●内径小/赤:力強い低音実際に試してみた印象としては、「内径中と内径大の音の違いは極端ではなく、空間表現や繊細さの微調整に使いやすそう」「内径小は内径中&大と比べ、中低域がわかりやすくプッシュされ明快な効果を得られる」といったところだ。イヤーチップは6タイプも付属。それぞれ形状や素材、音を通す内径の大小などが異なり、こちらもチューニングに利用できる。詳細は以下の通りだ。●Bass●Vocal●SpinFit●Memory foam(フォーム素材)●Balanced●Tri-flange(3段傘)ただ、イヤーチップ選択においては装着感も重要。音のチューニングだけを考えて、イヤーチップを選ぶわけにはいかない。そのため、「音の調整は主に音導管の選択で行い、イヤーチップ選びは装着感重視」という、役割分担を基本にするのがおすすめ。そういう分担ができることも、音導管交換機構が用意されているモデルのメリットだ。ただし、この音導管&イヤーチップの選択には注意点がひとつ。内径小の音導管は、内径だけではなく外径も細いため、付属イヤーチップのうちきっちりはまるのは、トリプルフランジのみだ。設計の意図としては、トリプルフランジのサポートページの記述にある、「外耳道の奥深くまで挿入でき、より豊かな音を導くことができる小さなサウンドチューブ。このイヤーチップを使う場合には、赤いリングの細い交換可能型音導管を使用してください」という一文から想像するに、内径小の音導管はトリプルフランジイヤーチップありき。おそらく、そのイヤーチップを使いたいユーザーに向けて用意された音導管ということなのだろう。だが、音導管とイヤーチップの組み合わせの自由度は、より高い方が面白くなる。今後は、内径は小さくしつつ肉厚で、かつ外径は他と揃えた音導管や、外径を調整するためのアダプターといったアイテムにも期待したい。■FiiOイヤホンの最高傑作!ということで、そういった細かな要望はあるが、むしろその程度の要望しかないのだ。そもそも筆者は、バランス音導管&バランスイヤーチップの組み合わせで大満足なので、他の音導管の些細な弱点なんて、実はぜんぜん気になってなかったりする。強いて注意点といえば、お借りした試聴機には「400hエージング済み」の付箋が貼られていた。実力発揮までには、十分な慣らし運転が必要であるっぽい気配を漂わせている。一般的にも、硬質な振動板ほど鳴らしに時間がかかる傾向にあるので、本機を試聴や購入の際には、その点も気に留めておいた方がよさそうだ、ということくらいか。イヤホンブランドとしても期待される立場となりつつある同社が、その期待に完璧に応えてくれたモデル、それがこのFD7だ。FiiOのイヤホンは、いまやこのレベルに達している!というのを、ぜひ体感してみてほしい。◇◇◇高橋敦TAKAHASHI,Atsushi趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。
高橋 敦
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