最新の12.9インチiPad Proの“オーディオ・ビジュアル力”をレポートします
iPad Proは、現在12.9インチと11インチ、ふたつのサイズに分かれています。今期のモデルは12.9インチの方にだけ、液晶ディスプレイのバックライトシステムとしてミニLEDを採用しました。これは、iPadとして初の試みになります。そして、iPad Proのディスプレイがついに高画質なHDR動画コンテンツのネイティブ表示にも対応しました。
ディスプレイが変わったことで、12.9インチのiPad Proは本体が従来機よりも約0.5ミリ厚くなり、質量も41グラムほど増えています。第4世代のiPad Proを用意して、それぞれのサイズ感を持ち比べてみました。もとが大判のiPadなので、明確な違いが感じられるほどではないと感じます。
一方で、11インチiPad Proは前世代のモデルよりも5グラムほど軽くなっています。新しい12.9インチのiPad Proは、Liquid Retina XDRディスプレイになってもApple Pencilによる書き味は大きく変わっていません。そのため、画質には重きを置かない音楽制作などのクリエイティブワークを中心に、高性能なiPadを色々な場所に持ち歩きながら使うことを期待している人は、ポータビリティが高い11インチのモデルがおすすめかもしれません。
ほかにも、最新のMacBookやiMacに搭載されたアップルの自社設計によるシステム化された統合型ICチップ「Apple M1」がiPad Proに採用され、CPUやGPUによる処理が高速化しています。モバイル通信が可能なWi-Fi+Cellularモデルは、こちらもiPadとして初の5G通信(Sub6)に対応しました。このふたつは、12.9インチと11インチのiPad Proが共有する新しい特徴です。
最近は、Wi-Fiが使える公共スポットも増えてきましたが、CellularモデルのiPad Proにモバイル通信を開通させておけば、屋外のさまざまな場所でWebやメールをチェックしたり、場合によってはビデオ通話もできます。iPhoneのようにインターネットに即つながるスピード感は、ビジネスパーソンのリモートワーク向けツールとして今のところ「iPadにあってMacBookにない魅力」のひとつに挙げられると思います。
今回は、12.9インチiPad ProのWi-Fi+Cellularモデル、カラーはシルバーのモデルを入手しました。内蔵ストレージは1TBです。
最新のiPad Proは、ストレージの容量が最大2TBまで選べるようになりました。また、今期のiPad Proはメインチップを変更した理由によるものか、RAM(メモリー)の仕様が開示されています。ストレージ容量が512GB以下のモデルは8GB、1TB以上のモデルは16GBのRAMが搭載されます。iPad Proをクリエイティブワークやゲームのために活用することを考えている人は、内蔵ストレージが1TB以上のモデルを頑張って手に入れた方が長く使い倒せそうです。
それでは、12.9インチiPad Proのオーディオ・ビジュアルの実力に迫りたいと思います。
新しい12.9インチiPad Proには、Liquid Retina XDRという新開発の液晶技術を採用するディスプレイがあります。第3・第4世代のモデルと同様に、ディスプレイの専有面積を広く取ったオールスクリーンデザイン。TrueDepthカメラは12MP/122度をカバーする超広角カメラになっています。
新しいiPad Proは、ディスプレイの直下に極小サイズのミニLEDバックライトを敷き詰めて、それぞれを細かく分割したエリアごとに発光量を制御する「ローカルディミング」、または「エリア駆動」とも呼ばれる技術により、映像の隅々まで最適な明るさに調整する技術を採用しています。
直下型LEDによるローカルディミングやエリア駆動は、リビングシアター向けのテレビやPCディスプレイに長く採用されてきた成熟度の高い技術です。一方で、ミニLEDバックライトシステムは比較的新鮮な映像関連のトピックスとして注目されています。iPad Proは、約1万の極小サイズのLEDを均一に配置した直下型バックライトシステムを、2,596のエリアに分割してローカルディミングを行います。LEDを“ミニ”にすることにより、精緻なローカルディミングができる土台が整います。あとは独自のアルゴリズム制御により、映像を破綻させることなく上質な画質を追い込む段階に各社による腕の見せどころがあります。
そして、最新のLiquid Retina XDRディスプレイが対応するHDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)の技術は、映像によって表現できる輝度の幅を拡大して明暗の再現を、人間が目で見る風景や人物のリアリティに近づけることを目的としています。
これを実現するためには、液晶ディスプレイのバックライトに優れた明るさが求められます。Liquid Retina XDRディスプレイはHDR映像を表示した場合、画面の最大輝度が1,000ニット、キラッと瞬く光などを捉えた被写体のピーク輝度は1,600ニットまで再現できる十分な明るさを備えています。
第4世代のiPad Proと見比べてみると、Liquid Retina XDRディスプレイの高性能は明らかでした。iMovieで黒い背景の上に白いタイトル/テロップの文字を置いた映像を作成してチェックしてみました。文字の輪郭がつぶれるような光漏れのノイズは少なく、黒色は深く沈み込んでいます。明暗の制御はとても優秀だと思います。
Dolby Vision方式のHDR動画が撮影できるiPhone 12 Pro Maxのカメラで晴れた日の青空を記録し、AirDropでiPad Proに移して再生しました。第4世代のiPad Proに比べると、新しいiPad Proで見る映像は空のブルーが際立ち、白から薄いグレーに変わる雲の色の繊細な立体感も目で見た風景により近く感じられます。
HDR対応のコンテンツとディスプレイが揃うと、明部ピークの再現力が伸びるだけでなく、通常のディスプレイでは明るく白トビしてしまったり、反対に暗い場面は黒ツブレしがちな映像の“隠れた情報”も浮き彫りになります。また、コントラストの再現力が高まると色彩のリアリティにも豊かさが増してきます。
iPad Proで楽しめるHDR対応のコンテンツには、Apple TV+のオリジナル作品や、iTunes Storeで購入・レンタルできる作品のスペックに「Dolby Vision」と表示されているものなどが充実しています。映像から伝わってくるリアリティと没入感は、ほかのiPadに比べて新しい12.9インチのiPad Proがケタ違いに高く、ワクワクさせられます。
パーソナルシアター的にひとりで映画・ドラマを楽しんだり、あるいはYouTubeやインスタグラムに公開する動画の編集にiPad Proを活用することを考えている方は、迷わず最新の12.9インチiPad Proを選ぶべきだと思います。
新しいiPad Proは、本体に内蔵する「4スピーカーオーディオ」の音質が向上していました。アップルは、製品紹介のページなどでスピーカーの改善ポイントを特に言及していませんが、第4世代のiPad Proと聴き比べてみると明らかな差がありました。
特に低音域の重心が下がり、音像定位の安定感が増しているように筆者は感じました。映画のダイアローグは輪郭に力強さが加わり、音楽コンテンツはボーカルや楽器の音がますます立体的に描かれます。比べながら聴くと、第4世代のiPad Proの音がやや平板で奥行きの描写力が足りないように感じられるほどです。
iTunes Storeでも配信されている映画「アリー/スター誕生」のラストシーンでは、レディ・ガガが演じる主人公アリーの歌声を新しいiPad Proのスピーカーは堂々と響かせます。音のひずみも一段と改善され、ノイズフロアがしっかりと下がったことから、小さな効果音の粒立ちまでクリアに浮かび上がります。ホールに漂う張り詰めた空気が徐々にヒートアップして熱狂に変わるさまも活き活きと伝わってきました。
Apple Musicで聴く通常のステレオ音声で収録された楽曲もまた、新しいiPad Proの内蔵スピーカーで再生すると伸びやかで艶っぽく、アーティストの存在がより近く感じられます。
まもなくアップルの定額制音楽配信サービス「Apple Music」のサービスがアップデートされ、配信されるすべての楽曲がCDと同等の高音質で楽しめる「ロスレスオーディオ」対応になります。また、数千を超える「ドルビーアトモスによる空間オーディオ」の楽曲ではサラウンド体験も楽しめます。
Apple Musicの新しいサービスの詳細については、「Apple Musicの“いい音”体験が変わる!ロスレスとサラウンドの魅力を解説」を参照してください。本稿では、新しいiPad Proでふたつの新サービスを楽しむ方法をおさらいしてみます。
ロスレスオーディオについては、パワーアップした内蔵スピーカーで聴くか、または有線イヤホンで聴く方法もあります。AirPodsシリーズなど、iPad ProにつなげられるBluetooth対応のワイヤレスヘッドホン・イヤホンではミュージックアプリの設定でロスレスオーディオを選択していても、ワイヤレス伝送の段階で圧縮がかかってしまうためロスレス再生にはなりません。ご注意ください。
有線イヤホンはUSB-Cポートに直結できるタイプの製品もありますが、あらためて買い直すよりもアップル純正のアクセサリー「USB-C/3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ」のようなアイテムがあれば、すでに所有しているアナログ接続の有線イヤホン・ヘッドホンが使えます。
Apple Musicのロスレスオーディオ配信には、最大192kHz/24bitまでの「ハイレゾ」音源もサービス開始当初約100万曲が揃うようです。iPad Proでハイレゾを聴くためには、ThunderboltとUSB 4に対応するUSB-Cポートにハイレゾ対応のUSB-DACを内蔵するアンプを接続してから、ヘッドホンやスピーカーで音を鳴らせる環境を整えます。
最近は、USB-Cポートに直結できるポケットサイズの“ハイレゾ対応DAC内蔵ヘッドホンアンプ”が増えているので、お気に入りのハイレゾ対応イヤホン・ヘッドホンと組み合わせたApple Musicのモバイルリスニングにも最適です。12.9インチiPad Proの場合は、据え置きタイプのDAC内蔵ヘッドホンアンプと組み合わせて、アルバムのジャケットを表示しながら音楽再生を楽しむモニターとしても楽しみ甲斐がありそうです。
とにかく高性能&多機能なiPad Proは、何でもできる“King of iPad”です。iPadで映画や音楽を超・快適に楽しみたい方は、Liquid Retina XDRディスプレイと4スピーカーオーディオを備える最新の12.9インチiPad Proが最高の選択になります。後々になってiPadで画を描いたり、5Gネットワークにつないでリモートワークにも活用してみたくなっても、きっとユーザーの期待に最良の答えを導き出してくれる、長く愛せるパートナーになってくれるでしょう。
やまもとあつしジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。
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