常に独自の視点で独自の音楽を生み出していくDJとして世界中で活躍する田中知之(FPM)さん。音楽のみならずファッション、時計、クルマ、グルメとオールジャンルでの博覧強記を駆使した田中流「男の定番」をご紹介する連載です。田中知之(FPM)の「DJ目線で指南するちょいウラな定番」世界を舞台に活躍するDJ田中知之(FPM)さんが自らの美意識に叶った「男の定番」をご紹介する連載。今回のテーマは……。
「石ノ森章太郎の『サイボーグ009』みたいだなぁ」今から30年くらい前に初めて仕事でパリを訪れた時、クリニャンクールの蚤の市に出店していたミリタリー専門の古着屋で初めて見かけた瞬間、咄嗟にそう呟いてしまった。丸みを帯びたダブル合わせの前立てのラインに沿うように配されたボタンをしげしげと見つめる私に、その店のベレー帽がよく似合う咥えタバコのムッシューは「これは古いフランス軍のバイク部隊用のオーバーコートだ」とフランス語訛りの英語で教えてくれた。
▲ 個性的で独特のフォルムにひと目惚れ
この個性的で独特のフォルムにひと目惚れしてしまった私は「セ・コンビアン?」と思わずたずねていた。値段は忘れてしまったけれど、思いのほかに安かったので、そのまま日本に連れて帰ることにした。以来、私の定番アイテムとなったのが、このフランス軍のM38モーターサイクル・コートだ。M38の名前のとおり1938年に登場し、1950年代まで製造されていたのだが、私が所有するのは、ザックリとしたモスグリーンのコットンキャンバス生地製で、竹を削り出して作ったボタンが付属する最初期のタイプ。表面に糸穴のないバンブーボタンがサイボーグ009感を余計に醸し出しているが、50年代に近い後期モデルになると、ボタンは四つ穴の樹脂製となる。素材もキャンバス生地が少しなめらかになり、色目も緑が濃くなるが、基本その佇まいは変わらない。
オーバーコートだけあって、サイズは基本大きい。サイズ表記は1から3まであり、3が一番小さいといわれているが、まぁどれもほぼ変わらず大きいので、身体がデカい私には元来うってつけの一着。だが、袖付けがラグラン・スリーブなので、意外と着る人の体格を選ばない。しかも、昨今のオーバーサイズ気味のトレンドもあってか、ここ数年は古着市場でも人気も価格も完全に上昇トレンドだ。本来、ボタンで脱着できるウール製のライナーも付属するのだが、中古市場ではライナー付きのものは珍しく、実は私もライナーは所持していない。しかし、脇下には通気孔も空いているし、背面のヨーク下はベンチレーションになっていることもあり、真冬の防寒用コートというよりは、スプリングコートとして着用している。しかし、さすがバイク乗車時の風除けの仕様でデザインされているだけあって、丸襟を立てて極太のチンストラップで留めると、チン(顎)どころかすっぽりと鼻先くらいまでを覆い隠すことができるのだが、全世界を襲った新型コロナウイルス問題でマスクが品薄となったこともあり、私はこの仕様を外出時のマスク代わりとして重宝してしまった。誠に皮肉な話ではあるのだが。
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