IFA発表のソニー製オーディオ製品に関しては、大きく3つに分類できる。
まずは機能性を高めた一般向けの製品群で2つの新製品が投入された。
ノイズキャンセリングヘッドフォンMDR-1000Xシリーズの最新版「MDR-1000XM3(380ユーロ)」は最新のDSPを内蔵した新しいチップを起こし、長時間バッテリ駆動とより高いノイズキャンセリング性能を得ている。
MDR-1000XM3。欧州でも地元のトップブランドと互角以上のセールスをもたらすきっかけとなったMDR-1000Xのフルモデルチェンジもうひとつはランニングだけでなく、様々な姿勢で身体を動かすクロスフィット、あるいは防水チップと内蔵メモリを使うことで水泳でも利用可能な左右独立型ワイヤレスイヤフォンの「WF-SP900(270ユーロ)」だ。
ソニービデオ&サウンドプロダクツ V&S事業部 企画ブランディング部門 商品企画部の井上千聖氏と大庭寛氏次に一般向けの高音質ヘッドフォン群。
欧州では販売しないものの参考展示された「IER-M9」と「IER-M7」は、前者が5ウェイ5ドライバ、後者が4ウェイ4ドライバのマルチウェイバランスドアーマチュア(BA)構成のインイヤーヘッドフォン。音楽制作やアーティスト向けに開発され、ユニバーサルフィットとしては極めて高い遮音性を誇る。ドライバユニットは、すべてソニー独自設計・生産で、この製品に合わせて再生帯域がチューニングされている。
IER-M9ソニー製ヘッドフォンがグローバルで躍進するきっかけとなったMDR-Z7がフルモデルチェンジを受け「MDR-Z7M2(800ユーロ)」も展示された。音質傾向がMDR-Z1Rに近い方向へと寄せられ、付属ケーブルの見直しなどトータルの質が高まっている。ただし欧州価格を見る限り、従来機よりはやや価格が上がる模様だ。
MDR-Z7M2最後にエンジニアが“特定ジャンルを突き詰めて”高い品質を目指すシグネチャーシリーズに、インイヤーヘッドフォンの「IER-Z1R(欧州価格2,200ユーロ)」とデジタルミュージックプレーヤーの「DMP-Z1(欧州価格8,500ユーロ)」が追加されている。いずれも8月に行われた香港のオーディオショウでお披露目が済んでいるものだが、大々的な展示は今回が初めてだ。
IER-Z1Rいずれも掘り下げれば掘り下げるほど、面白い話が出てくるのだが、ここではザッと駆け足でファーストインプレッションをお伝えしていきたい。
さて、それぞれ特徴のある製品だが、まずは左右独立型ワイヤレスイヤフォンで、防水対応チップも同梱するWF-SP900について触れておきたい。以前にレビューしたランナー向けイヤフォンレビューの「追補」と捉えていただいてもいいだろう。
WF-SP900その際、水泳でも使えるNW-WS413も試したが、あまりいい印象は得られなかった。水泳用の防水チップを取り付けると音量が下がり、絶対的な音圧が不足することも理由だったが、ターンで壁をキックすると簡単に外れてしまうなど、少々、装着安定性に不安を感じたためである。
他社製を見渡すとスイミングゴーグルにプレーヤー部を装着する製品もあるが、単機能のBluetoothイヤフォンの中でも、本機は極めてコンパクトかつ軽量な製品である。片側7.3グラムと、1月のCESで発表したWF-SP700Nよりも0.3gながら軽量で、見た目にもスリム。
残念ながらスイミング時のインプレッションはお届けできないが、企画・開発担当者によるとターン時に壁を蹴った際などに脱落しないよう、入念なアークサポーター(耳たぶの溝に沿わせて安定させるスタビライザー)や本体形状の調整を行ったという。イヤーアークのサイズも、従来の2種類から3種類へと増やされている。
また、アークサポーターとイヤーチップの位置関係を最適にするため、イヤーチップの装着深度を2段階に調整できるようになっている。ランニング時などにアークサポーターが溝から外れやすい人には朗報だ。
実際に装着してみたが、筆者の場合、これまでは右耳のアークサポーターが外れやすかったのだが、チップ装着の深度を左右で変えると見事に安定した。軽量・コンパクトで頭の向きにかかわらず安定している。
水泳時での使用に関しては試せていないため明言は避けたいが、ゴーグルなどに絡めて脱落時の紛失を防ぐリーシュコードを添付しているため、万一脱落したとしても紛失する心配はない。ランニング時ならなおさらだ。
クロスフィットトレーニングやストレッチなどの際にも外れにくいよう調整しているとのことで、姿勢に依存しない安定した装着感は、それだけでも要注目。これまで試してきたスポーツ用の左右独立型ワイヤレスイヤフォンの中では、ダントツの安定感と安心感である。
また電波が透過しない水泳時でも利用できるよう、4GBメモリを内蔵し、イヤフォン単体での音楽再生を実現(操作は加速度センサーを用いたタップで行なえる)しているほか、左右イヤフォンの結合をSP700Nの磁気共鳴通信による結合へと改められている。水中での利用を可能にするためだが、都心部の駅など2.4GHz帯が混雑している状況でも左右の音切れといった問題を引き起こしにくいのではないか?と予想される。
一方、末尾のNがないことからもわかるとおり、「ノイズキャンセリング」は搭載されていない。ただし外音収集を行うマイクは搭載しており、街中でのランニング時に周囲の音を適切な音量で音楽にミキシングする機能は搭載されている。
これは“可能な限りの小型軽量化”と”水泳にも使える防水性”の両立を目指し、スポーツ利用に特化する意図で、あえてノイズキャンセリング機能を外したとのこと。一方で音楽再生機能を内蔵していることを考えれば賢明な選択ではないだろうか。
バッテリーケースは本体を三回充電できる容量を確保。Bluetoothイヤフォンとして使った場合の連続使用時間は3時間とSP700Nと同等だが、システムトータルの再生時間は12時間となる。ただし内蔵する音楽再生機能を利用する場合は単体で6時間の再生が可能。市民マラソンにチャレンジしている人にも十分に余裕のある再生時間となる。
最後に音質だが、小型軽量化のためにシングルBAドライバ構成となっている。BAは再生帯域が狭いため複数個を用いることが多い。たとえばBA採用イヤフォンの草分けエティモティックリサーチのER-4などは、高域の繊細な表現力と引き換えに低域再生能力が低かった。
本機の場合、初期のBA採用イヤフォンよりも、少し低めの帯域に合わせてカスタムのBAドライバを自社生産しているようだ。高域の伸びやかさや解像力の高さはさほど感じないかわりに、中域を中心にバランス良く聴かせる。“スポーツ用”として、身体を動かしながら音楽を愉しむ製品と考えるなら、まっとうな音作りと言える。
なお、ノイズキャンセリング機能、音楽再生機能を除くと、SP700Nに準ずる機能を持ち、イコライザー調整や音質調整をアプリからも行なえる。
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