――ではお聞きします。まず、今回マスタリングはどちらのスタジオで?
GOH:僕の自宅のスタジオですね。
――アナログからデジタルまで、いろいろなフォーマットがあったと思うんですけど、それはGOHさんの方でデジタル化したのですか?
GOH:まずはユニバーサルのスタジオで96kHzで取り組んでもらいました。48kHzの音源に関してはもう1回プラグインで96kHzに全部伸ばして、それらのデータを僕の所にもらって、そこから作業を始めました。
――その時代によって音が違う音源を、今回の〈2019リマスタリング〉で一つの統一感というか、そういうようなことをされたと思うんですけど、今回のリマスタリングのテーマや、意識された音作りというのは?
GOH:やはり内包されている魅力を今の時代に反映するというか、今の時代の耳で聞いて、今の音で聴かせたいということですね。どういうことかというと、ある程度エッジが効いていたりとか。あと最近の流行入りというわけじゃないんですけれども、ちょっと歪ませるんですよね。でも歪むっていうのは、オーバーリミットするんではなくて、ちょっとしたサチュレーションやエキサイターで。それが今の音楽で大事なわけです。ちょっとざらっとした質感っていうんですかね。昔のアナログテープには、やっぱりそういう音は狙って作ってないので含まれていない。本当にスパイスみたいなもんなんですけどね、そういうのをちょっと加えることによって、他の音楽と同じトレンド感が伝わるように工夫をするんです。
――なるほど。
もちろんオリジナルの雰囲気は失われないようにしています。ただ僕の考えではリマスタリングというのは単に修復ではないのです。ノイズをとって綺麗にするのは当たり前のことで、それ以上のことを自分の耳を通してやってみたいなと思ってました。その辺のことを松任谷さんに――3週間に1回とか月に1回ぐらい――聴いてみていただいて、こういうアプローチにしてみよう、と。あとは今自分が取り組んでいる現状を、すでに発売されているCDと常に常に聞き比べながらやりました。皆さんが思っている印象は大事ですから。
あんまり変えてしまうと、全然違うものになりうることもあるので。でも分からない程度に「新しい」っていう感じになるというか。冷凍されたものではなくて、“今、録れたての音”っていうのがあると思うんですよね。音というのは新しければ新しいほど新鮮に聞こえるものなんですよね。おもしろいことに。
――マスタリングの方向性は、お二人ですり合わせをされていたんですか?
松任谷:僕は聴いて音さえよければ、それでOKです(笑)
GOH:でも新しい発見とかあるから、面白かったですよね。
松任谷:プロデューサーとエンジニアの関係が変わってきたと思うんですよね。昔はエンジニアというともうちょっと技術屋さん寄りだったんだけど、今は作曲家と編曲家の関係がプロデューサーとエンジニア。だから、ここからはアレンジしてくださいっていう感じで。それが好きか嫌いかだけ。
――お二人のお仕事はいつ頃からでしょうか?
GOH:「宇宙図書館」(2016年)からですね。
松任谷:なんかずいぶん長くやってるような気がするけど、実はそんなに長くないんですね。ただやっぱりそういう感覚でやってくれる編曲家的な、音を料理してくれるようなエンジニアとなかなか出会えなかったんですね。
GOH:本当に光栄です。
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