ヘルス
By Steve Garbarino2021 年 3 月 24 日 11:13 JST 更新
トム・ラムジーさん(55)が久しぶりに味を感じたのは病院の食事を取っているときだった。ニューオーリンズの高級レストラン、アチャファラヤのエグゼクティブシェフで、ソムリエの資格を持つラムジーさんは1月末に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患(りかん)し、一時的に味覚と嗅覚を失っていた。
食べたのはポークシチューのライス添え。「まだ匂いは全く感じなかった」が、「それでも料理はおいしく、最高だった」とラムジーさんは言う。「味を感じることのありがたみがあらためて分かった」
退院後、味覚が再び弱くなったが、ラムジーさんはまだ諦めたくなかった。
新型コロナ感染後に味覚や嗅覚が減退したシェフやソムリエの中には、自分なりの解決策を編み出したり、感覚を取り戻すアイデアを思い付いたりした人たちがいる。
ラムジーさんは「鼻を鍛え直すためにも、常に物を手に取って、匂いを感じようとしている」という。「どんな匂いだったかは体が覚えている」そうだ。匂いを感じることができ、かつ記憶の中で匂いを再現できるものもいくつかある。
「匂いで言えば、かんきつ類やローズマリー、ターメリックがそうだ」とラムジーさんは言う。「プロシュートのナッツのような香りや、マッシュルームを料理したときのトーストのような匂いも分かる。まさに自分が探している匂いだ」
酸素の補給を受けているラムジーさんは自宅で新しいレシピのアイデアを考えながら、ミシシッピデルタで過ごした子ども時代の匂いも思い出している。雷雨の前の独特の匂いはラムジーさんにとって「匂いの基準の一つ」だという。
新型コロナ感染者のうち、一時的に嗅覚を失う人は80%にも上る。医師や研究者によると、ほとんどの患者は1、2週間で嗅覚が戻るが、症状が長引く人もいる。嗅覚が戻っても、匂いの感じ方が変わる異嗅症を発症する人もいる。
新型コロナから回復して1カ月が過ぎたころ、スーザン・クランデンさん(37)はどうしてもワインが飲みたくなった。クランデンさんはシアトルのレストランのマネジャーで、ソムリエの資格を持つ。35日間、味も匂いも感じなかったが、1月半ばにボジョレーを開封した。「酸っぱくて渋いジュースとしか思えなかった」が、それでも「なかなかの味だった」と話す。
味覚がないことに気付いたあとは、「『次の一口は味が分かる』と思いながら食べる」方法を何週間も続けた。「焦げたかんきつ類の匂いをかいだり、トウガラシを食べたり、ミントをかんだり、味覚を目覚めさせるためにさまざまなものを試した」
クランデンさんは「木の皮やコケ、ヒマラヤスギ、煙のような、土のような香り」など、ワインに関する味覚を徐々に取り戻しているという。こうした匂いは新型コロナに感染する前よりもはるかに強く感じるという。
「今の限られた味覚が希望になっている。味覚は鍛え直せると思う。自分のワインと食べ物の好みが変わるかどうか、興味がある」とクランデンさんは言う。
今は職場ではソムリエとして受けたトレーニングを生かして、ワインの仕入れを担当している。
アラバマ州フェアホープ在住の元ソムリエ、ジュリア・イノホサ・ハムさん(50)は昨年11月の感謝祭のころ、新型コロナに感染したことが原因で味覚と嗅覚がなくなった。感染後は全てが紙をなめたときのような味がした。
味覚と嗅覚を感じるようになって3カ月になるが、今は「面白いことに水でもオリーブでも、全てが甘く感じる」。イノホサ・ハムさんは甘いものが好きではないが、それでも、「今ある感覚に感謝するようになった」と話す。
ブレイス・ティッドウェルさんがソムリエ兼ドリンク担当ディレクターとして働くニューオーリンズのフレンチクオーター地区にあるレストラン、ブレナンズはシャンパンのコレクションで知られる。12月に新型コロナに感染して匂いが分からなくなったが、症状が出始めてから10日ほどすると味が分かるようになり、1カ月後には味覚は完全に戻ったという。
嗅覚はもう少し時間がかかった。回復して3週間たっても、匂いは全く感じなかった。今は75%くらい戻ったが「調子がいい日もあれば、悪い日もある」。
味覚が完全に戻ったら、米東海岸産のブルーポイント牡蠣と、「トーストしたブリオッシュ、ラズベリー、カラマンシー、パイナップルの砂糖漬けの香り」がするというフランス北部のエグリ・ウーリエのシャンパンを楽しむつもりだ。
「嗅覚が完全に戻るまでは記憶が頼り」とティッドウェルさんは話した。
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