フォーミュラ1(Formula One、以下F1)が、Amazon Primeでチャンネルを立ち上げようとしている。F1 TVという名前のこのチャンネルは、ゆくゆくは1億人が加入しうるほどのポテンシャルを秘めている。
同チャンネルはAmazon Prime会員が対象だが、そのなかでも配信されるのは、F1との新契約や再契約で独占放映権を獲得している放送局がない国のみだ。たとえばイギリスではスカイ(Sky)が独占放映権を持っているため配信されない一方で、アメリカでは配信される見込みだ。これについてF1のグローバルスポンサーシップおよびコマーシャル部長のマレー・バーネット氏は次のように語った。
「Amazon Primeのようなオープンプラットフォームに参加するのはF1にとって意義がある。すでにAmazonとはこれからの配信内容について話し合っている。アメリカではESPNとの契約上、OTT(オーバー・ザ・トップ)が許されており、F1はアメリカのAmazon Primeに間違いなく参加するだろう」。
Advertisement
おそらくF1とAmazonとの交渉は、Amazonとユーロスポーツ(Eurosports)役員との交渉と似たようなものになる。同社はすでにプライムビデオでの放送に同意している。もしそうなれば、F1 TVは視聴者が見たいチャンネルに料金を支払う形式でプライムチャンネルに参加するようになるだろう。
今回の提携についてメディア解析企業アンペア・アナリシス(Ampere Analysis)のシニアアナリストのトビー・ホーララン氏は、Amazon側の視点から次のように分析する。F1 TVによって顧客がプライムで複数のサブスクリプションを支払うようになれば、単一のインターフェイス内からますます多くのコンテンツにアクセスできるようになるため、Amazon Primeからの解約が減る効果も期待できるという。
F1 TVの加入者と、それに付随するすべてのデータを取得することは、F1がほかの競技との差別化を図るうえで重要だ。F1の放送権を持つ側からすれば、自社の持つ権利の価値が下がると考えるかもしれない。それでもF1にとっては、これはそもそも消費者についてはじめて知ることができる機会であり、消費者とはじめて関係を築けるチャンスなのだ。
OC&Cストラテジー・コンサルタント(OC&C Strategy Consultants)の共同経営者であるモスティン・グッドウィン氏によると、F1にとってのリスクは月額定額課金(SVOD)の採算性の問題を乗り越えて利益をあげられるか、そして放送権を持つ各企業を怒らせずにコンシューマービジネスを確立させるという綱渡りだという。
イギリスやアメリカ、ドイツなどの既存の市場では複数のサブスクリプションに加入する世帯が増加しており、動画サービスのサブスクリプション契約をしている世帯で見ると、1世帯あたりで平均ふたつのサービスと契約を結んでいる。アンペア・アナリシスによると、アメリカだけに限ればこの契約数は2.8にまで上昇するという。
バーネット氏はF1 TVを「Amazon Primeのなかでもスマートなチャンネルにしたい」と語り、次のように述べた。「F1 TVはファンと直接関係を築くための手段だ。これまでは常にプロモーターやテレビ放送局を通してしかできなかったことだ。F1 TVは放送局との関係性の外側にある独立した収益源だと考えている」。
権利者自らサブスクリプションサービスを立ち上げるのは、これまでサッカーをはじめとする他競技でもリスクが高いとされてきた。放送局と高い利益を上げられる契約を結んでいるからだ。だがバーネット氏は「スポーツにおけるスポンサーの形は変わりつつあり、ブランド独自の目標に焦点をあわせるようになってきている。F1でも契約に至るまでに、スポンサーとの提案と対話にずっと時間をかけるようになりつつある。もはやスポンサーに対し、購入できる権利とその価格のメニューを見せるだけでは駄目なのだ」と語る。
そのうえで今回の挑戦は、新たにスポンサーになりうる各企業、とりわけコンシューマーブランドに対し、F1が今までにないほどファンに接近していることをアピールする好機となるだろう。つまるところ、F1はこれまでB2B事業としてやってきた。収益は大手放送局や企業スポンサー、政府からのものだった。だから観客についてもあまり知識がなかったのだ。バーネット氏は、過去12カ月に渡ってこうした知識の溝を埋めるための投資を行ってきたと語る。
こうした戦略がAmazonの幹部の心をつかんだようだ。7月はじめに、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)部門がF1の最新の出資者となることが明かされた。バーネット氏はこれについて、従来のスポンサー契約とは異なる面があり、この出資が成立したのは、F1とAmazonが権利から最大の利益を得ようとすることと同じくらいに、両者の間で同じやりかたで価値を生み出そうという共通意思があったからだと明かす。Amazonもこれを受けて、自社のクラウドコンピューティングソフトウェアを使ってレース中に画面に自動車の技術的な情報を表示するほか、数十年にわたるデータやコンテンツにファンがアクセスできるようにする取り組みを進めている。
Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)
カテゴリー
関連記事
ホット記事